水素社会を拓くエネルギー・キャリア(11)
エネルギー・キャリア各論:アンモニア(その2)
塩沢 文朗
国際環境経済研究所主席研究員、元内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「エネルギーキャリア」サブ・プログラムディレクター
しかし、CO2の大幅な排出削減と並び、化石燃料への依存度を減らすという、私たちのもう一つの目標に即して考えるならば、アンモニアの原料水素は、天然ガスから製造した水素ではなく、再生可能エネルギーを用いて水を電気分解することなどにより製造した水素とすることが望ましい。この場合も、当面の間はアンモニアの合成法としてはHB法が工業的に優位な方法になると考えられ、その合成反応には高温と高圧の条件が必要となるため、プロセス全体のエネルギー効率を高めるためのさまざまな工夫を行うことが求められる。なお、さらに中長期的には、新たな触媒を開発することなどによって、より温和な条件下でアンモニアを合成できるような革新的な製法が開発されることが望まれる注5)。これらが、アンモニアの製造に関する、今後の重要な技術開発課題である。
最後にアンモニアの価格について触れておこう。この連載の第6回でも書いたとおり、水素エネルギーが発電分野に導入されるためには、水素のプラント引き渡し価格が30円/Nm3以下になることが一つの目安と言われている。この水素価格30円/Nm3-H2と熱量等価のアンモニアの価格を計算してみると約40円/Nm3-NH3となるのだが、これをアンモニアの取引単位である重量当たりの価格に直してみると、約52円/kg-NH3または520$/t-NH3(1$=\100で換算した場合)という値になる。最近、アンモニアの国際価格はやや上昇しているが、アンモニアのCIF価格がこの520$/t-NH3という水準を下回ることは珍しくない。このことは、世界で流通しているアンモニアの生産コストは、発電向けの水素エネルギー源としても十分にコスト競争力があるレベルにあるという可能性を示している。
加えて、先に記したとおり発電所では既に専門家の管理の下でアンモニアが問題なく貯蔵され、利用されていることから、現在SIP「エネルギー・キャリア」において進められている、アンモニアを燃料とする発電の実証試験が順調に進み、この利用可能性が実証されれば、発電分野でのCO2排出抑制対策、さらには再生可能エネルギーの大量導入手段として、アンモニアは有力な手段になるのではないかと期待される。
このようにアンモニアは、エネルギー・キャリアとしてかなり面白い性質と潜在的可能性を持つ物質と言えよう。
- 注5)
- 実は、アンモニアの合成法は、1908年にHB法が発明されて以降、100年以上に渡って革新的な合成法が開発されていない。