省エネの「ダブルカウント」に要注意
―京都議定書目標達成計画の失敗を繰り返すな―
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
附1.節電の継続性の見通しについて注6)
本稿の主題とはやや離れるが、附記として、現在継続している節電について、2030年断面でどのように見込むべきかを述べる。(省エネ小委の試算では現時点で「検討中」となっており、数値は示されていない)。
震災以来、節電が継続している。その規模は家庭・事業所(工場・オフィス他)の何れでも、震災前に比べて10%前後の電力消費量の削減であった。 但し、この内容には変化が見られる。家庭において、節電意識は年々低下しており、「エアコンの利用減」などの、我慢を伴う節電行動は減少している。工場・オフィス他においても、「操業時間シフト」などの、我慢・コストを伴う節電行動は減少傾向にある。
家庭部門の節電率の要因分解
家庭部門において「高効率な機器への更新」および「電気料金上昇の影響」による節電効果を推計したところ、2014年夏においては、それぞれ、家庭の電力消費量の4%程度、1~2%程度であった。
節電率の要因分解について、家庭部門は図9のように整理される。すなわち震災直後は、「電力不足解消への貢献意識」から、我慢・コストを伴う節電が多く実施されたが、そのような行動は年々減少する傾向にある。節電率がそれでも過去数年で一貫して家庭部門の電力消費の10%前後と変わらなかった理由は、「高効率な機器への更新」があり、この「4年分の効果累積」が4%程度あること、および、「電気料金上昇の影響」が1~2%あり、「料金によらず持続」される節電行動が5%前後に減少しているものの、それを埋め合わせている、と推察された。
以上の分析をもとに、2030年の電力消費量における節電の効果を推計すると、以下のようになる。現在10%前後で推移している節電率のうち、コストや我慢を伴うことの多い「節電行動」による部分は、いま5%前後とみられるが、これは今後も減少を続けるだろう。
他方で、「高効率な機器への更新」(4%程度)は、マクロフレームの中で、ないしは機器の導入による「省エネ対策の効果の試算」で別途勘定される。また、「価格効果による節電量」(1~2%程度)は、マクロフレームなどによって別途勘定される。従って、ここではこれらを勘定すると、ダブルカウントになって、誤りになる。
ダブルカウントにならないのは我慢などを伴うこともある「節電行動」による節電率である。これは、現時点において5%前後であるが、年々1%程度減少してきた。今後もこれは減少を続けるだろう。もちろん、照明や空調が過剰であった場合、それについての学習が進んだりしたので、このような点については、今後も、我慢やコストを伴わず、節電が定着する部分もあるだろう。だが今後、どれだけ長期にわたって定着するかは未知である。
- 注6)
- この章の節電実態の分析は(西尾・大藤2013)および木村(2013)に基づく。ただし2030年の見通しは筆者によるもの。