日曜大工でもできる究極の温暖化対策
山藤 泰
YSエネルギー・リサーチ 代表
建築物の省エネルギー基準が強化される方向に向かっている。1980年に初めてつくられた省エネ基準は92年、99年に改正され、段階的に強化されてきた。2013年に施行された現行の基準で建物と設備機器を一体化し、建物全体の排出量を総合的に評価するしくみに移行した。この新基準は「1次エネルギー消費量」を指標とし、建物ごとに省エネ性能を比べやすくなっている。国土交通省が検討している建築規制では、着工前に延べ床面積などに基づいてエネルギー消費量を計算する。建築主が提出した計画が基準消費量を下回れば着工を認め、上回る場合は是正を求めることになっている。
日本の建築物に対するエネルギー効率に関わる規制は、世界の先進国の中で最低の部類に属するといわれるが、やっと改善の方向に向かったことは評価すべきだろう。しかし、これは新規の建築物に対して適用されるものであって、既築のものについてはほぼ野放しになっている。この分野に何らかの形でエネルギー効率を上げる施策がなければ、日本全体の建物を巡るエネルギー効率は向上しないだろう。
個々の既築建物構造全体についてエネルギー消費効率を上げる対策をとるのは難しいかもしれないが、建物外部からの熱損失がもっとも大きいのがガラス窓であることに注目すべきだろう。内窓設置が推奨されたこともあるが、既築のビルや住宅の窓ガラスはまだ殆どが単層ガラスで、熱損失は極めて大きい。最近の新築住宅の窓がやっと複層化しつつあるのが現状のようだが、最近建てられた総合病院の窓が依然としてアルミサッシ(熱貫流率が非常に高い)の単層ガラスであるのを見て唖然としたこともある。
筆者の実経験をご紹介したい。自分の書斎の腰高窓に内窓を自分で取り付けることを考えていたのだが、本当に自分で設置するのならガラスを提供しますよと言ってくださったガラスメーカーさんのご好意で、窓の寸法にあった赤外線遮断膜のついた複層ガラス(Low-Eガラス)を頂戴できたのは有り難かった。それに日曜大工の経験を生かしてホームセンターで木材を仕入れ、外枠寸法に合わせて切ったものを貼り付けて組み上げ、底面には車輪をつけて引き窓に作り上げた。予想していたより遙かに手間がかかって途中でギブアップも考えたほどだが、何とか2枚の内窓を書斎で座っている椅子の背中に面した窓に取り付けた。
効果は予想以上のものだった。これまでは、冬になると寒さがじわじわと背中を襲ってくるのがぴたりと止まった。夏の暑さの侵入も感じなくなったし、赤外線が反射されるため、西日が差しても全く暑くならないので、風で飛ばされて一部なくなっていた簾を補修する必要も感じなくなった。この断熱窓ガラスの設置でどれほど電気代やガス代が減ったかは全く分からないが、この快適さを知ると多少高くついても取付をする人も多いのではないかと思っている。
このような日曜大工を推奨することは無理だろうが、窓の寸法は大体標準化されているから、熱貫流率の低い樹脂を使った窓枠の複層ガラス窓キットのような商品を開発して、比較的簡単に設置できるようにする企業は出ないだろうか。業者に設置を頼むとしてもコストは大きく下がるはずだ。この方式に何かの奨励策を準備すれば、多くの既築建物の断熱効果を上げることができるだろう。20年前に自宅を建てた時に、リビングだけには当時高かった複層ガラス窓を取り付けたのだが、この部屋は空調をしなくても夏は涼しく冬暖かい。壁や屋根の熱貫流率はガラスに比べると遙かに低いから、窓だけ、それも全部ではなく、よく使う部屋だけに複層ガラスの取付を限定しても有効性は高いだろう。
この方式が普及すれば、多少なりとも日本のエネルギー自給率を上げることにならないかと思っている次第である。