IPCC統合報告書の問題点(速報)


キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

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要約
IPCC第5次評価統合報告書(11月1日発表)は、4月迄に発表された第1~3部会の報告書を短く再編集したものである。
従って、新規の知見は無い。有用な情報は多いが、その一方で、既存報告書にあった問題点を引き継いで、尖鋭化させてしまっている。

(本文)
統合報告書注1)の問題点について、最もよく参照される政策決定者向けへの要約(Summary for Policy Makers; SPM、以下、単に「要約」)を中心に指摘する。

1.悪影響を誇張している

 これはもともとの第2部会報告の問題点を、そのまま引き継いでいる。漁獲量への環境影響について、「確信度が低い」(=科学的不確実性が大きい)と本文にはっきり書いてあるのだが、何とそのことに触れずに(!)要約に図を掲載している。穀物の収量について、将来の温度上昇シナリオをすべて混ぜあわせた上に、論文の件数を数えて、悪影響の方が好影響より大きいなどと結論している(Fig. SPM. 9)。これでは科学とは言えない注2)

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2.2度目標へ誘導している

 IPCCは、本来、政策提言を禁じられている。だが統合報告書では、無数にあるシナリオのうち、2度目標を66%の確率で達成する「2度シナリオ」と、今後温暖化対策をしない「なりゆきシナリオ」を対比して、「なりゆき」ではだめだから、2度にしなければならない、と誘導している(=はっきりとは書いてはいないが、そう思わせる書きぶりになっている)。

注1)
統合報告書
本文 https://www.ipcc.ch/report/ar5/syr/
日本語版要約概要 http://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/pdf/ar5_syr_outline.pdf
注2)
第2部会報告の環境影響評価の問題点について、詳しくはこちら
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4002/