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IPCC統合報告書の問題点(速報)


キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹


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まず、「なりゆき」については:

現行を上回る追加的な緩和努力がないと、たとえ適応があったとしても、21 世紀末までの温暖化は、深刻で広範にわたる不可逆的な世界規模の影響に至るリスクが、高いレベルから非常に高いレベルに達するだろう(高い確信度)

(要約より)

などとしている。気持ちは分からないでもない。筆者も何となく避けた方がよいとは思う。だがこの「専門家判断」について、科学的な根拠は示されていない。「なりゆき」の場合は4度以上の温度上昇になるが、その場合にどのような悪影響があるのか、研究が乏しいからだ。「リスクが、高いレベルから非常に高いレベルに達する」というのも意味がよく分からないが、なぜ高い確信度などと言えるのかは、もっと理解できない。

そして、このなりゆきと対置するものとして、2度シナリオを繰り返し提示している。例えば:

工業化以前と比べた温暖化を2℃未満に抑制する可能性が高い緩和経路は複数ある。これらの経路の場合には、CO2及びその他の長寿命温室効果ガスについて、今後数十年間にわたり大幅に排出を削減し、世紀末までに排出をほぼゼロにすることを要するであろう…

(要約より)

このなりゆきと2度は両極端で、その間こそが現実問題として知りたいところだが、それは付け足し程度にしか言及されていない。

3.2度シナリオの難しさを軽視している

 2度シナリオは、バイオエネルギーとCCSを世界全体に普及させて、世界のCO2排出をマイナス(!)にするという、荒唐無稽なシナリオである。第3部会報告でも、この難しさが軽視されていたのは問題だったが、統合報告書もこれを引き継いでしまった。
 2度シナリオでも経済損失は少なくて済むという趣旨のFigure SPM.13 が新たに作成されたが、これは、飛躍的な技術進歩(世界中でのバイオマスとCCS普及)のみならず、理想的な世界政治という、ほぼありえない前提に基づくものに過ぎない。理想的な前提を少し現実に近づけるだけで、2度目標は実施不可能となり、コストでいえば無限大となる。だが、この図はそういった、最も肝心なことから注意を逸らしてしまう注3)

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4.2度シナリオの罪

 なりゆきシナリオと2度シナリオは、両極端である。現実的な落としどころとしては、いきなり2度を目指すのではなく、一定の対策を打ちつつ、技術革新を進め、長期的にリスクを管理していくということになろう。だが残念ながら、今回の統合報告書は、そのようなシナリオではなく、もっぱら2度シナリオを提示した。この実現不可能なシナリオを真に受けると、国際交渉は暗礁に乗り上げ、国内の政策論でも混乱を招くだけで、問題の解決は遠ざかる。筆者はこれを危惧している。
 本当は、我々が知るべきは、もっと現実的なことだ。例えば、2度ではなく、もっとありそうな3度、4度であればどうなるか、といったことだ。だが統合報告書は、環境影響については、科学として間違うか、あるいは「専門的判断」で「リスクが増す」と繰り返し、結局、どの程度の影響なのかさっぱり分からない。環境影響については「2度、3度、4度でどの程度の影響の差があるのかは分からない」とはっきり言うべきだった。排出削減策については、シナリオは「荒唐無稽」と認めて、もっと現実的な検討をすべきだった。

注3)
第3部会報告の2度シナリオの問題点について、詳しくはこちら
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3871

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