電力会社が再エネの接続を保留

固定価格買い取り制度(FIT)の本質的欠陥


国際環境経済研究所前所長

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 この表を見れば明らかなように、太陽光発電が大量に導入された場合、出力抑制なしであれば、2020年までの負担総額として16兆円以上の系統対策が必要になることは認識していたと言える。この計算は、太陽光発電の導入量を2800万kWと想定しているが、今年6月末での実際の太陽光発電認定容量は既に6600万kWに上っている。すべて運転されるとなれば、系統安定コストが膨大な額に上ることは必至である。

 したがって、政府が法律で固定価格買い取り制度の詳細設計を行うに当たっては、認定容量が予想を上回って系統接続に支障が生じる結果電力システム全体の安定性が脅かされるような場合は、政府が電力会社に対して供給承諾を停止させるなどの指示ができるようにしておかなければならなかったのではないか、そうすれば今回のような混乱は未然に防げたのではないかと考える人も多いだろう。

再生可能エネルギー導入制度の本質的欠陥

 ところが、名は体を表すのだが、固定価格買い取り制度は再生可能エネルギーによって発電された電気を買い取る時の価格を固定し、その価格の下で発電量がどれくらいになったとしても必ず全量買い取ることを電力会社に義務づけるものだ。したがって、そもそも量をコントロールすることは考慮されていない制度なのである。CO2を出さない電源をできるだけ早く増やすことが、温暖化対策として必要だったからだ。

 一方、固定価格買い取り制度の前に導入されていた「RPS制度」(電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法)は、電力会社の総発電量のうち一定割合を再生可能エネルギーの電力にすることを義務づけるものだ。この制度は量をコントロールしながら、価格は再生可能エネルギー事業者の競争に委ねていた(再生可能エネルギー事業者にとってはどちらが有利か一目瞭然だ。それゆえ、固定価格買い取り制度への変更に向け、再エネ事業者によるロビーイングが激しく行われたのもうなずける)。

 価格と量の両方をコントロールする制度は、今のところまだ存在しない。そもそもそのような制度は「市場」の完全否定であり、政府の計画経済そのものになってしまう。今回の接続申請への回答保留は、政府や電力会社の責任というよりも、固定価格買い取り制度など「再生可能エネルギー導入のための制度」そのものに内在する本質的欠陥が表面に現れた結果なのである。

 それにしても、固定価格買い取り制度の導入後、驚くほどのスピードと規模で太陽光発電ばかりが導入申請された。これを政府も電力会社も予想していなかったことも、問題への対処が後手に回った原因となった。太陽光発電で一攫千金をもくろむ事業者のロビーイングに屈したのかどうかは分からないが、極めて好条件の買い取り価格を設定した結果、接続保留を招いたという意味では、国や価格算定委員会に大きな責任がある。

 再生可能エネルギー事業者にとって好条件ということは、すなわち発電コストが高くなる=最も効率が悪い電気が消費者に供給されるわけで、消費者の負担が極めて大きくなるということだ。太陽光発電とそれ以外の再生可能エネルギーとの量的なバランス変更や、太陽光発電の買い取り価格自体の早期引き下げ、改定間隔の短期化、(認定時ではなく)発電時の買い取り価格の適用、認定後の転売や容量・スペックの変更禁止、規模小分割申請の禁止などが必要であると指摘されるゆえんである。

エネルギーミックスはどう描くのか

 一方で政府は、電力システム改革を推し進めている。すなわち、電力の価格にも発電量や発電設備量にも法的な介入をやめ、需給調整を市場に委ねるのが基本方針だ。ところが、再生可能エネルギーについては、制度が複雑化する恐れがある。接続申請への回答保留の混乱を収拾する過程で、電力会社や政府に対して様々な注文が付き、両方に介入する方向で解決がなされる可能性があるからだ。電力システム改革と再エネ導入支援策という、全く逆向きのベクトルをもった2つの政策をどのように整合させるのだろうか。また、そのちょうど真ん中くらいに、原子力政策が位置づけられている。

 このような電力政策の構造変化の中、政府は、2015年暮にフランス・パリで開催される国連気候変動枠組み条約第21回締約国会合(COP21)に向けて、2015年半ばくらいまでには、日本の温室効果ガス削減についての数値目標を国際的に提示しなければならないという宿題を抱えている。その削減目標を約束するためには、温室効果ガスの排出を大きく左右する電源構成の将来像について、政府は単に絵を描くだけではなく、それを実現する手段を同時に用意しておく必要がある。

 再生可能エネルギー、原子力、火力をどのような構成にするのか、またその構成にするためにはどの程度市場に介入するのか、さらにそのときの国民負担(電気料金や温暖化対策税)などはどの程度までなら受け入れられるのか。

 また、固定価格買い取り制度に限って言えば、電力政策の観点だけから見直すのでは十分ではない。再生可能エネルギーの全量買い取りに関するプロジェクトチームが2010年に議論したように、温暖化対策の文脈の中で、1tのCO2を再生可能エネルギー由来の電気で減らすのか、ガソリン自動車の燃費を改善するのか、森林で吸収するのか、どれが最もコストが安いのかという観点から見直すべきだ。再生可能エネルギーによるCO2削減が高くつくという答えがでれば、固定価格買い取り制度の存否そのものが問題視されることは確実である。