東京電力法的整理論の無邪気さと無責任さと
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
目的を改めて考えるべき
これまで述べてきた通り、東電の法的整理はそのままでは賠償、廃炉といった問題解決の手段足り得ず、また、日本経済全体に与える影響も甚大であるため、東京電力は「死ねない巨人」として法的整理が回避され、何十年かかっても国に借金を返していくこと、賠償、廃炉等に取り組み続けるという十字架を課せられたのだ。こうした現実を踏まえれば、事故直後であればまだしも事故から二年近く経ってなお、立法府の、しかも与党の議員である方が、東京電力を破綻処理・法的整理すべきという論を安易に口にされることには首を傾げざるを得ない。
このインターネット番組で森本氏に再三指摘されていた通り、目的はなにか改めて考えていただきたい。目的は東電に鉄拳をふるう姿を国民に見せることではなく、電気の安定供給と的確・迅速な賠償による被害者救済、廃炉事業の安定的な遂行、そして今後の電力システム改革に適切に対応していくことであるはずだ。多くの特別立法や措置の必要性について言及することもなく、その具体策について提示することもなく、ただ東電の法的整理を主張することはあまりに無邪気であまりに無責任ではないだろうか。
筆者自身も現在の原賠法には相当大きな問題点があると認識している。首都圏の電力供給を担う会社が数十年にわたり借金を背負い続けることへの懸念、電力自由化との不整合、国民負担極小化の観点からの疑問、原子力損害賠償制度としての汎用性の無さ(他の事業者が事故を起こした場合には成立し難いスキームである)、他事業者が負担する一般負担金の法的正当性への疑問、不法行為制度による金銭賠償を通じた被災者救済の限界など様々な問題点があり、今後に備えて原賠法は抜本的に見直されなくてはならないと考えている。しかし今回の福島原子力事故は現在の原賠法の下で起きてしまった。その法秩序の下において起きた事象はその法秩序のもとにおいて処理されなければならないのだ。日本が法治国家である限り。
そして、そもそも今や東京電力の最大の株主も最大の債権者も国である。いま法的整理をするなら、株主、債権者としての国がまず腹を決めなくてはならない。それを明確にしないまま、国に近い立場の方が、法的整理を公言し、民間の株主や債権者に債権放棄を迫ることはあり得ない。政府部内の議論をまとめる方が先決だろう。
つまり、議員による東電の破綻処理・法的整理論は、評論家による論旨としてならまだしも、(1)既存の法秩序を軽視している、(2)問題解決への道筋を何ら具体的に示していない、(3)株主・債権者として最大の当事者である国の態度を明確にしていない、の3点で、与党議員の主張として相応しくないと筆者は考える。
原賠法の問題点や原子力事業体制に関わる今後の展望については昨年21世紀政策研究所において報告書を取りまとめた注9)。そちらもぜひ参照していただきたい。