新電気事業法における供給能力確保義務を考える(続)
インバランス料金議論に関する補論
電力改革研究会
Policy study group for electric power industry reform
前回記事では、小売電気事業者が、実需給段階の需要に応ずるために必要な供給能力を確保する義務を負う、と法律上整理されたことを所与としつつも、ゲートクローズ後に発生するイベントへの対応は、系統運用者が代行し、系統全体で必要な調整能力を確保する方が、現実的かつ効率的であると指摘した。それはまさに松村教授が指摘する「小規模事業者が不均等に抱え込む小規模な予備力が系統全体で効率的に利用しにくい点を考えれば、非効率」「必要な予備力は系統全体の視点で確保し、それを個々の事業者に安易に囲い込ませず市場メカニズムなどを使って効率的に利用すべき」という問題意識に基づいたものだ。
次に、前回記事で提案したシステム(ゲートクローズ後に発生したイベントには系統運用者が対応)を前提にインバランス料金をどうするべき考えてみる。
余剰側インバランス料金<不足側インバランス料金 とするとは、具体的にどうするかと言うと;
不足側インバランス料金=P+α
Pはゲートクローズ時における電力価格
αはあらかじめ設定する価格差
とすることである。
この様にするメリットは、ゲートクローズ時における需要計画・発電計画の精度を上げることである。つまり、ゲートクローズ前は卸電力取引所が開場しているので、小売電気事業者はその段階で発生あるいは発生が予想されるイベントに対して、市場を活用して需給の調整をすることが出来る。上記のようにインバランス料金を設定すると、ゲートクローズ前に市場を活用して、需給調整を済ませる方が、必ず得をすることになるので、需要計画・発電計画の精度が高くなることになる。これはゲートクローズ後の調整の為に系統運用者が用意する調整能力の必要量注3)を減少させ、系統全体のコストを下げる。
それでは、松村教授が着目する小規模事業者の立場に立つとどうか。インバランス料金そのものの負担では、余剰側<不足側 は事業者の規模に対して中立でないので、余剰でも不足でも小規模事業者の方がインバランスの発生量の多くなりがち(=負担が大きくなりがち)であるから、大規模な既存事業者が存在する日本にはふさわしくないと松村教授は主張する。ただ、余剰側<不足側 という料金設定は、海外でも複数の国で行われており、それらの国でも少なくとも自由化初期は大規模な既存事業者が存在していたと思われるので、その主張が絶対的な真理とまでは言えない。
他方、余剰側<不足側によるゲートクローズ前の市場活用のインセンティブは、大規模事業者にも機能する。系統運用者が用意する調整能力の量は大規模事業者の計画の精度の高さに大きく左右されるであろうから、大規模事業者がゲートクローズ前に提出する計画の精度が向上すれば、その恩恵は、調整能力の費用負担減少の形で、小規模事業者にも及ぶことになる。
つまり、インバランス料金の設定は、余剰側<不足側も、余剰側=不足側も、それぞれ小規模事業者にとってメリットがある。どちらを選択するかは、余剰側<不足側とする場合の価格差の程度等も含めて多面的に検討する必要がある。少なくとも、余剰側=不足側にしないと小規模事業者不利という議論は極端すぎるように思える注4)。
- 注3)
- 前回記事におけるRb、Rcの必要量のこと
- 注4)
- 更に付言すると、新規参入者は需要の変動が相対的に少ない需要家を選択することも可能である。
執筆:東京電力株式会社 経営企画本部 系統広域連系推進室 副室長 戸田 直樹
※本稿に述べられている見解は、執筆者個人のものであり、執筆者が所属する団体のものではない。