新電気事業法における供給能力確保義務を考える


Policy study group for electric power industry reform

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 また、発電計画であるが、ゲートクローズ後に予定していた発電機がトラブルを起こした場合は、インバランスが発生する。需要の変動と異なり、発電トラブルが発生したとの情報は、小売電気事業者は迅速に得ることが可能である。しかし、このトラブルがゲートクローズ前に起こった場合には、卸電力取引所から代替供給力を調達することが出来るが、ゲートクローズ後は卸電力取引所が閉場しているので、そこからの調達に期待することはできない。それでも、全ての小売電気事業者が発電機1基分の予備電源を確保して、自ら供給能力確保義務を順守することを期待するなど、現実的でも効率的でもないだろう。

 以上を踏まえると、系統運用者はゲートクローズ段階において、少なくとも次の3種類のニーズに応えるだけの調整力を確保している必要があると思われる注8)

1.
コマ内で生じる需要の上下動に対応するもの(以下「Ra」という)
2.
ゲートクローズ後の電源トラブルに対応するもの(以下「Rb」という)
3.
ゲートクローズ段階の需要計画の誤差に対応するもの(以下「Rc」という)

 上記3種類の調整能力の必要量については、例えば、次のように考えられる。
 Raについては、実際に生じているコマ内の周波数の変動データを参考に決める。これは、自然変動電源のシェアが増えたり、周波数を意識せずに予め定めたパターン運転をする電源が増えれば、所要量が増える可能性があるので、定期的に見直しを行っていくことが適当であろう。
 Rbについては、電力システムの緊急時への備えについては、「N-1基準注9)」という万国共通の考え方があるので、これと整合的に、最大容量の発電機1基分を系統全体で共有すればよいであろう。
 Rcについては、1時間前ゲートクローズという仕組みが実績を積んでくれば、実績として生じたインバランスのデータを元に決めればよいであろう。例えば、あらかじめ定めたピーク時間帯のコマにおいて発生したインバランス(系統全体で供給力が不足していたコマに限定)、つまり;
 需要実績-Σ小売電気事業者のゲートクローズ時の需要計画
の実績を積み上げて、その平均+3σに相当する量を確保することが考えられる(導入初期においては、類似のデータを用いて何らか工夫する必要がある)。
 なお、上記のRa、Rb、Rcで想定している事象は、独立して発生し得ると思われるので、系統運用者は、上記3つの合計量を確保することが必要と思われる注10)

 系統運用者が調整能力を確保するコストは、一般的に(発電機の場合)系統運用者の指令にいつでも従うことが出来るように待機することによって生じる機会損失である注11)。系統運用者はそのコストを待機する発電機の保有者に支払う必要があり、その負担は、最終的に適切な方法で系統利用者(発電事業者、小売電気事業者)に配賦される。この配賦の方法については、例えば、次のようなものが考えられる。
 Raは、周波数維持と言う系統運用者の本来の義務を果たすための調整力であり、全ての系統利用者による一般負担(例:託送電力量に応じた従量課金)が適切であろう。
 RbとRcは、系統運用者自身の義務ではなく、小売電気事業者の義務を代行するために確保する調整力であるので、一般負担は馴染まない。何らかの方法で受益者とその受益度合いを特定して配賦することが適当であろう。
 Rbは、電源トラブルというリスクに備えた保険と言えるものであるので、発電事業者が負担するのが適切であろう。その際、保険の一般的な考え方を踏まえれば、リスクの大きさに応じた配賦、つまり「発電機容量×計画外停止率」に応じて配賦することが考えられる。
 Rcは、ゲートクローズ時の需要計画の精度が低い事業者ほど、この調整力からの受益が大きいことになるので、計画の精度による配賦が考えられる。つまり、予め指定したピーク時間帯のコマにおける、個々の小売電気事業者のインバランス電力の受電量(需要実績-需要計画>0であったコマに限定)の実績を元に、平均+3σを算定し、その比率(IMi(平均+3σ)/ΣIMi(平均+3σ))で個々の小売電気事業者に配分することが考えられる注12)
※ IMi(平均+3σ)は、小売電気事業者iの個々のコマにおけるインバランス電力受電量の平均+3σである。

 以上、新電気事業法に規定する小売電気事業者の供給能力確保義務について考察した。政府の解明を杓子定規に解釈すると、小売電気事業者が実需給の瞬間まで義務の履行を追求することになってしまうが、そのようなことは事実上難しく、ゲートクローズ以降に想定されるイベントへの対応については、系統運用者が代行して義務を履行することが現実的であることを述べた。また、それを前提とした制度設計について一案を示した。

 この系統運用者による代行は、現実的であると同時に効率的でもある。Rbについていえば、N-1基準に則れば、発電機一基分の調整能力を全体で共有すればいいのであるから、個々の事業者が予備力を保持するよりも必要な調整能力の量は少なくなる。Rcについても、大数の法則が働くので、個々の小売電気事業者のインバランス受電量の和(ΣIMi(平均+3σ))よりも、Rcの所要量は小さくなる。このようにすることによって、系統全体で規模の経済性を享受することが出来るのである。

注8)
この3種類以外に、固定価格買い取り制度(FIT)の対象である自然変動電源の変動(出力予測誤差)に対応する調整能力が考えられるが、ここでは情報不足につき捨象する。
注9)
システム内にN個の設備があるとして、「1設備がトラブルで欠けても(N-1)停電しない。2設備以上がトラブルで欠けた場合(N-2)の停電は許容する」という考え方。
注10)
実際に独立事象かどうかは今後精査が必要。
注11)
具体的には、電気(kWh)を売る機会を制限されることによる損失。
注12)
このようにRcのコストを配賦すると、ゲートクローズ時点の供給能力確保が十分でないと、配賦されるコストが増えることになるため、供給能力確保義務の履行を促すインセンティブにもなる。

執筆:東京電力株式会社 経営企画本部 系統広域連系推進室 副室長 戸田 直樹
※本稿に述べられている見解は、執筆者個人のものであり、執筆者が所属する団体のものではない。

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