環境モデル都市とマイクログリッド


YSエネルギー・リサーチ 代表

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 「環境モデル都市」は、日本が目指すべき低炭素社会の姿を具体的にわかりやすく示すために、その実現に向け高い目標を掲げて先駆的な取組にチャレンジしている都市を政府が選定しているものだが、まず平成20年に13都市が選定され、東日本大震災後はエネルギー問題がクローズアップされる中、低炭素都市づくりの取組を全国に一層普及させるため平成24年度に7都市、平成25年度に3都市が新たに選定されている。平成25年度には、筆者が住む奈良市に隣接する生駒市が選定された。
 生駒市が選定されるまでは、単に概念的な施策として把握していたに過ぎなかったのだが、急に身近なものとなったこともあって、これまでに選定されている都市の取り組み内容を眺めてみた。再生可能エネルギーの普及促進、建物の高効率化、環境教育、地域の交通体系の効率化、コンパクトシティーへの転換など、共通はしているものの、各都市が置かれた地域環境の違いが具体的施策にはっきりと示されていて興味深いものとなっている。
 その過程で気がついたのだが、生駒市は、選定された他の都市には示されていないものを提案していた。その部分を引用すると、『市域に導入される分散型エネルギーを面的に有効活用していくために、市が中心となって市域のエネルギー需給を管理する新電力・地域エネルギー会社「いこまスマートコミュニティーサービス(仮)」の設立検討を進める。』とあり、これは、生駒市域を一つの単位として市がリーダシップをとってマイクログリッドを構築することによって、エネルギーの地産地消とその高効率化を推進するという構想だと受け取れる。筆者の思い込みが過ぎるかもしれないが。
 マイクログリッドは、高度な情報通信技術(ICT)を駆使して、限定された区域内の多種類の発電設備による発電と、その消費である電力需要を個別かつ全体的に制御することによって、エネルギー効率をできるだけ高くすると同時に、その区域の電力供給を安定的に行おうとするエネルギーシステムであるが、その実証プロジェクトは日本も含めた先進各国で行われている。最近米国の調査会社が出したレポートによれば、同国のマイクログリッドは実証段階から脱皮しつつあり、現在発電規模で約105万キロワットのものが、2017年末までには184万キロワットになると予測している。その中には軍事基地や大学キャンパスが多いが、市やコミュニティーベースのものがこれから急速に増加するとしている。

 生駒市は環境モデル都市構想の中で、市域からの温室効果ガス排出削減目標として、2030年度に2006年度比で35%、2050年度の70%削減するという意欲的な数字を示し、その実現に向けた方策の中には、太陽光発電の普及率を6.5%から5年間で16.5%となる15,800kWに、住宅や民間施設の燃料電池・コージェネレーションについては導入支援によって3,290kWを同期間に6,780kWに、公共施設へのコージェネ導入としては、10kWを1,000kWにするといった数字も設定されている。
 これによって分かるのは、環境負荷を下げる電源として、単に再生可能エネルギーの導入促進だけではなく、総合効率の高いコージェネなどの電源の導入にも力点が置かれているということだ。これは今後新電力を設立する場合に、出力制御ができるベース電源を地域で確保することによって、エネルギーの地産地消を実現しやすくするという意味でも重要な方策となる。
 ちなみに、間もなく新設される生駒市立病院にも400kWのコージェネ導入が決まっているし、市営の水道事業においては、浄水場の落差を利用して40kWの発電を始め、自治体が運営する水道事業の小水力発電設備としては全国で第1号の固定価格買取制度適用を受けることになった、あるいは、市有地を事業者に譲渡するにあたって、太陽光発電、燃料電池、HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)の設置を条件にするなど、環境モデル都市実現に向けた積極性を示す具体例が幾つか見られる。
 生駒市域にどのような形でマイクログリッドが実現するかが見えるようになるまでには少し時間がかかるだろう。筆者が抱く将来像としては、生駒市域全体に分散して設置される各種の電源がICTで統括制御されて一体化し、地域にある発電所として機能できるようになるということだ。十分な発電・蓄電能力を市域に保有することによって、地元への電力供給を災害時にも最低限は確保できるようにすると同時に、このマイクログリッドが接続されている送配電系統の安定化にも資することができるようにするというものである。紆余曲折はあるだろうが、決め手となるのは生駒市民がどれほど新電力を支援し受け入れてくれるかだろう。先進的な結果が生まれることを期待している。

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