3つの思い込み(幻想)問題
田下 正宣
エネルギーシンクタンク株式会社 代表
3.福島第一事故(原子力安全神話)
原子力エネルギーは最初、広島、長崎への原爆投下という形で、人類にその破壊力の凄さを印象付けた。その後軽水炉を中心に平和利用が進められ資源の少ないわが国、フランスで多く利用された。スリーマイル島(TMI)事故、チェルノブイリ事故で米国、フランスは多くを学び改善を図った。わが国は地理的に遠い事、また当時順調に稼働していた事と併せ、TMI、チェルノブイリ事故から学ばず世界標準と異なる「原子力安全神話」と言う「幻想」を信じ込まされ、信じた。そのつけを今、約10万人の避難家族と3年間で10兆円のLNG輸入代金を支払っている。背景には安全に対し「絶対安全か安全でないか」と言う「Yes or No」の2者択一を好む国民性があったのではないだろうか。絶対安全と言わなければ建設をさせないと言う一部の人達に従わざるをえなかった。現実には大半のことにはグレーゾーンである。その後、グレーゾーンの検討することすらタブー視された。これに対し米仏は現実的にグレーゾーン対応を施した。
4.纏め
専門家の意見はある時点での「専門家の常識(一種の思い込み)」であり中長期では往々にして異なる事がある。
1980年台のコンパトカー指向した多くの自動車会社はコモディティ全盛の1990年代GMなどガソリンが安いことからから大排気量のSUVへ転換した。これに対しトヨタ・ホンダなどはわが国の国情を踏まえ省エネに徹した。特にハイブリッドカー開発と商品化は時流に乗らず従来の「機械式自動車技術」を「メカトロニクス技術」へと新しい次元の技術体系へ見事に大きな流れを作った。
福島第一事故後原発停止により電力不足に陥り、建設期間が短い点、またシェールガス旋風と合い俟ち、天然ガス依存が急速に高くなった。しかしウクライナ情勢、シリア情勢、南シナ海情勢如何で天然ガスも非常に脆弱なエネルギー源である。
また温暖化問題も気に掛かる点で、現在でもわが国は先進国中のGDP当たりCO2排出量では最低レベルで平均の約80%程度と優等生である。過度な対応は国力を害う可能性が高い。石炭はコストが安く、産炭地も分散しており供給の安定性も高い。CO2排出量がLNGの約2倍程度多いが石炭火力を増設しても世界の温暖化問題に対し大した影響は与えない。
イギリスの指導者は決めたことにも健全な懐疑的な見方を常に抱いていると言われている。わが国は地政学的に大陸周辺国で大陸の影響を受けやすい。加えて国土が狭く資源乏しい。国家戦略に係るキーイシューは「世界の潮流」を踏まえた上で「国情」と「将来の技術の方向性」を考えることが肝要ではないだろうか。