私的京都議定書始末記(その40)

-進まない非公式協議-


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授

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AWG-LCAの交渉成果の法的形式

 第1の点の争いはバリ行動計画まで遡る。AWG-LCAは「合意された成果(agreed outcome)を得る」ことが目的であるが、合意された成果が条約や議定書のような法的枠組みなのか、単なるCOP決定なのかは曖昧なままにされた。

 当時、自分たちに法的義務がかかることを恐れた中国やインドが強硬に「法的成果(legal outcome)」という文言に反対したからである。その後、2年にわたるAWG-LCAでの交渉を踏まえ、COP15でコペンハーゲン合意が留意された。カンクンでの大きな宿題が「留意」に終わったコペンハーゲン合意を正式なCOP決定にすることであるということは前に述べたとおりである。

 問題はコペンハーゲン合意をCOP決定にしてから先、何を目指すかということだ。EUはAWG-LCAでパラレルな法的枠組みができることを京都第二約束期間容認の条件とした。したがってカンクンでのCOP決定の中で、将来、法的枠組みを目指すというメッセージを盛り込むことにこだわっていた。AWG-LCAの交渉成果を法的枠組みにすべきという点では日本も同じ立場だが、違いは京都第二約束期間を容認しないということだ。AWG-LCAの交渉成果の法的形式については、途上国は一枚岩ではなかった。中国、インド等は引き続き、法的枠組みを予見させる表現には強く反対していた。他方、温暖化の被害を最も深刻に受けるAOSISやLDCは法的枠組みが必要であると主張していた。米国は法的枠組みそのものを否定はしないが、そのためには先進国と途上国の法的義務が厳格にパラレルなものであることが必要であり、それが確保されないまま、曖昧に「法的枠組み」と書くことには反対していた。したがって意図は違うが米国、中国、インド等は「法的枠組み」を予断させる表現に反対するという点で一致していたことになる。