私的京都議定書始末記(その40)

-進まない非公式協議-


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授

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各国の緩和目標・行動のアンカリング

 第2の点は、よりややこしい。コペンハーゲン合意に基づいて先進国は別表Ⅰに緩和目標を、途上国は別表Ⅱに緩和行動を登録していたが、いずれも留意に終わったコペンハーゲン合意の一部である。コペンハーゲン合意をCOP決定にするのと同時に、各国が登録した緩和目標・行動を国連の正式文書の形で「ピン止め」する必要がある。関係者はこれを「アンカリング(anchoring)」と呼んでいた。錨(anchor)を下ろしてしっかり固定し、そこから後退しないようにするという意味があったのだろう。問題はこれをCOP決定、CMP決定にどうアンカリングするかということだ。

 更に複雑なのはAWG-KPでは、京都議定書に参加している附属書Ⅰ国の中期目標を一覧表にまとめた文書(FCCC/KP/AWG/2010/INF2)ができていたことだ。専門的な話で恐縮だが、INFとは、Information の略語で、各国が発表した中期目標を、交渉や協議を抜きにした一次情報として蓄積したという趣旨である。日本の例の条件付き90年比▲25%目標もこの中に含まれている。仮にこの文書をCMP決定に添付されると、京都議定書に参加している附属書Ⅰ国の中期目標は京都議定書プロセスでアンカリングされることになる。京都議定書附属書BにQELROsを書き込むには至らなくとも、そのベースとなる数字を書き込み、京都第二約束期間設定に向けて大きく歩を進めたことを含意する。まさしく京都第二約束期間を強く予断させる表現であり、途上国はこの方向性を強く追及していた。他方、逆に日本やロシアやカナダのように京都第二約束期間に参加するつもりのない国々にとって、自国の中期目標が入ったAWG-KP文書がCMP決定に添付されることは、決して受け入れられるものではない。