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原子力の将来へ不透明性を拭え


国際環境経済研究所前所長


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(産経新聞「正論」からの転載:2014年4月2日付)

 エネルギー政策の基本方針を定めるエネルギー基本計画の策定が大詰めを迎えている。中でも原子力の位置付けが注目点だ。今後とも一定規模を維持するのか、脱原発に向かうのか。その点は結局あいまいな形で決着しそうだ。

 私は、資源小国日本のエネルギー政策に、原子力は将来とも必要不可欠な要素であり、その選択肢を軽々に放棄すべきではないと考える。しかし、次の3つの不透明性を払拭しなければ、原子力維持へのハードルは極めて高い。

中長期政策に意思示されず

 第1に政治的不透明性だ。先の都知事選でも争点になったように脱原発、反原発と言えば、政治的に燃え上がる話題になる。政権交代で原子力推進に戻るという見方が一般的だったが、本当にそうだろうか。確かに再稼働問題については現政権の方がより積極的かもしれない。しかし、中長期的な原子力政策については、明確な政治的意思が表明されていないという点で前政権と五十歩百歩だ。

 原子力の平和利用に乗り出すことを決めた1950年代に比べれば、原子力への政治的支持は風化している。エネルギー安全保障や産業競争力の源として原子力技術の将来性にかけ、その実現のため最高レベルの人材や潤沢な資金を投入することが広く国民に受け入れられた時代は過ぎ去った。

 福島第1原発事故を経た今、それでも原子力は国益・国力にとり「特別重要だ」との政治的総意を再構築するのは相当困難だろう。原子力を将来の政策オプションとして維持しようとするだけで多くの政治的資産を費やす必要があるのが現状だ。果たして、日本の将来のためその仕事を請け負う気概ある政治家はいるだろうか。

自由化、バックエンド問題

 第2が政策的不透明性で、電力自由化との関係で原子力をどう位置付けるか、さらに核燃料サイクルのうちバックエンド問題をどう解決するかがまだ見えない。

 従来の電気事業法では大手電力は供給義務を課されており、それを果たすため必要な電力設備投資を求められてきた。投資コストを確実に回収できなければ、ファイナンスが滞り供給設備が不足する危険があるため、総括原価主義による料金規制などで回収を担保する仕組みが用意されてきた。

 現在進行中の電力自由化は、市場に需給調整を任せる、すなわち価格形成を規制から解放することを旨とする。新たな制度環境下では、投資回収リスクが飛躍的に増大するのは避けられない。そのため、大きな初期固定投資を必要とする発電所建設のためのファイナンス可能性は、これまでよりも圧倒的に不確実なものとなる。

 再生可能エネルギーは、全量固定買い取りという究極の総括原価主義による料金規制の適用で、市場の枠外、つまり「国策」としての位置付けを得た。原子力はどうなるのか。これまで「国策」と言われてきたが、電力自由化時代の訪れとともに競争市場における競争的電源と位置付けるのか。

 それとも、再生可能エネルギーと同様、エネルギー安全保障、温暖化対策、技術の特異性などさまざまな意味での国の政策的な位置付けを強く与え、原子力を従来通り規制的環境に残したうえで、その代替や新設に当たってファイナンスを確実にするような措置をとっていくのか。この議論を正面から行うべき時期が来ている。

 高レベル放射性廃棄物の最終処分場、高速増殖炉の原型炉「もんじゅ」開発計画の取り扱い、六ケ所村の再処理工場の竣工(しゅんこう)遅れに伴う使用済み核燃料蓄積、プルトニウムの今後の処理方策など、重要なバックエンドの諸問題に関する政策的判断が遅れている印象は拭えない。今後は廃炉から最終処分まで、より総合的観点から問題を整理し、本腰を入れて具体的解決策を検討していく必要がある。

分かりにくい規制委の活動

 第3は規制的不透明性だ。確かに、東京電力の事故処理の遅れで損なわれた原子力全般への国民の信頼を回復することは重要だ。そのため原子力規制委員会も事業者に厳しい姿勢を取ろうとしているのは理解できる。だが、規制委の役割は、原子力施設を廃止に追い込んだり稼働を阻んだりすることにあるのではない。安全に稼働する条件を確立し、事業者による順守を検証するのが本務なのだ。

 原子力の事業リスクを低減するには、規制活動の予測可能性が不可欠なのに、規制委の活動を見ていると、諸手続きの不透明性や不確定性、判断基準のブレ、審査・審議記録の不全などが目立つ。

 バックフィット(遡及適用)をめぐる手続きの決まり方や、活断層・地震に関する調査・評価プロセスにはいろんな批判が聞こえてくる。規制活動は科学的・工学的な視点から客観的に行われるべきで、被規制者側が「恭順の意」を示すかどうかで規制者側の判断が左右されるといった旧態依然の規制活動などあってはならない。

 以上、3つの不透明性は相互に連関する問題だ。これからの原子力政策はこれら全体をにらんだ総合的解決を必要としている。

※ 産業経済新聞社に無断で転載することを禁ず



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