風力発電が原発に、そして火力発電にも代替できる

環境省の再エネ導入ポテンシャル調査報告書(平成23年3月)が教えてくれる


東京工業大学名誉教授

印刷用ページ

NHKクローズアップ現代が再エネFIT 制度設計の甘さを取り上げた

 再生可能エネルギー(再エネ)固定価格買取(FIT)制度が施行されてから1年半近くになる昨年(平成25年)11月末の再エネ電力の導入状況が資源エネルギー庁(エネ庁)から公表された。そのなかで、再エネ電力の導入(運転を開始したもの)設備容量(kW)が、設置認定を受けた設備容量(kW)の約1/5 にしかならないことが大きな問題になっている(文献1 参照)。この問題をとりあげたNHKのクローズアップ現代(2014/03/03)は、これは書類が整ってさえいれば認定を受けることができるFIT制度における制度設計の甘さにあると指摘した。すなわち、実際に設備を設置できないような所、設置しても商業用送電網から離れているために生産電力を電力会社に受け入れてもらえないような案件が認定を受けている。資源エネルギー庁はこのような運転開始の見込みのない600件について、認定を取り消すとともに、この認定制度の見直しのワーキンググループを発足させている。エネ庁発表のデータから各再エネ電力の種類別の設備容量の導入量の認定量に対する比率(導入/ 認定比率)を表1 に示した。商業用送電網の需要端に設置される太陽光(住宅)以外の再エネ電力の全てで、この導入/ 認定比率の値が20 % 以下になっている。

表1 再生可能エネルギー種類別設備導入(運転を開始したもの)容量の設備認定容量に対する比率
(設備/ 認定比率、%)、FIT制度施行後、17ヶ月(平成24年7月 ~ 平成25年11月末)の値

(資源エネルギー庁公表のデータから計算した)

再エネ電力導入量が増えないのは、導入/ 認定比率が小さいだけではない

 エネ庁は、FITの認定制度の見直しに一生懸命なようであるが、再エネ電力が増加しないのは、この導入/ 認定比率が小さいだけではない。いま、エネ庁が再エネ電力の推進の主力としている太陽光(非住宅、メガソーラ)では、狭い国土の日本における設置面積上の制約から、その導入ポテンシャルが存在しない。一方、この導入ポテンシャルの大きい風力発電では、その立地が北海道や東北のいわば、電力の需要地から離れた所にあるために、送電線がないとの理由で、生産電力を電力会社に引き取って貰えない。これらは、先に私の行った指摘でもあるが(文献1 )、その根拠は、その指摘のなかでも引用した環境省の再生可能エネルギー導入調査報告書(調査報告書と略記、文献2 )から得られたものである。この報告書では、国内の地理的な条件、気象条件などに左右される自然エネルギー(国産の再生可能エネルギー)導入可能量の推定値から社会条件としての法的な規制や土地利用の条件から制約を受ける部分を除外して求められる導入ポテンシャル量が詳細に検討・解析されている。
 実は、この調査報告書は、鳩山内閣のときに、無謀な温室効果ガス(CO2)の大幅排出削減のためのFIT制度の導入の効果を調査することを目的としたものであった。このなかで、メガソーラについては、その導入ポテンシャルが小さく、「事業用発電事業として大々的に普及していく可能性は高いとは言いにくい」とする一方で、導入ポテンシャルの大きい風力については、設備立地上の問題から「特別高圧送電線の新増設の課題がある」としている。この調査報告書では、導入ポテンシャルの値が設備容量(kW)の値で与えられていて、設備の発電可能量(kWh) への換算がなされていないために、一般には判り難い形になっているが、FIT制度の導入の効果に懐疑的な結論になっている。この調査報告書のデータから、各再エネ電力種類別の導入ポテンシャルを発電可能量に換算した値(文献3 )を表2に示した。同表にはまた、自然エネルギー(国産の再エネ)の生産において、生産されたエネルギー(産出エネルギー)から生産設備の製造・使用に使われたエネルギー(投入エネルギー)を差し引いた正味の産出エネルギーが有効に使われる割合としての(有効自然エネルギー比率 i )の値も示した(文献3 参照)。このiの値の大きい再エネ(ここでは風力)が使用できる限り、iの値の小さい再エネ(太陽光)は使用の対象にならない。
 ところで、この調査報告書は、平成23年3月、福島原発事故後の出版であったため、原発電力代替としての再エネ電力の開発を早急に推進する必要に迫られるようになったエネ庁の目に入ることがなかったのではなかろうか。あるいは、都合の悪い情報として無視されたのではないかとも思われる。FIT制度施行後にエネ庁の再エネ推進室の担当者に、この調査報告書について尋ねたところ知らないとのことであった。私が知る限りで、その引用は澤の著書(文献4 )のみである。 

表2 再エネ電力の種類別の導入ポテンシャルの発電可能量換算値、および有効自然エネルギー比の値
(環境省調査報告書(文献1 )のデータをもとに試算した。文献3 参照)

注:
 
*1 :
原報(文献3に含まれていない。国内の人工林が100 % 利用されたと仮定し、製材用材、パルプチップ用材等に使われた残りの廃棄物を全量発電用に利用した場合の発電量の推算値(文献5から)
*2 :
各再エネ電力の導入ポテンシャルの値の国内合計発電量(2010 年)1,156,888百万kWh(文献6)に対する比率
*3:
発生したエネルギー(電力)の中の再エネ電力設備の製造・使用のさいの投入エネルギーを差し引いた有効に使われるエネルギーの比率

環境省調査報告書が教えてくれる導入ポテンシャルの大きい風力

 現状で、安価で安定供給可能な石炭火力がある限り、電気料金の値上げで国民に経済的な負担をかけるだけのFIT制度による原発代替の再エネ電力が不要であることは、先に、私が指摘した通りである(文献1 および3 参照)。しかし、将来、いずれは枯渇する化石燃料(発電の場合は石炭)に代わって、国民の生活と産業に必要な電力を供給できる再エネとしては、表2に示すように導入ポテンシャルの大きい風力主体での供給が要請されることになる。
 先にも述べたように、風力発電の導入ポテンシャルは、その適地が、北海道、東北地方、さらに、洋上風力では九州も加わるが、いずれも、需要の大きい地域から離れて存在する。したがって、クローズアップ現代でも報道されたように、現状で、風力発電に依存する場合には、発電の適地から需要地への送電コストが大きな課題となる。
 調査報告書(文献2 )から、陸上と洋上の合計の風力の各電力会社管内の導入ポテンシャル設備容量(kW)の値を発電可能量(kWh)に換算した値を、表3に示した。この表3 には、中小水力(河川部)と地熱(熱水資源開発)の導入ポテンシャルの発電可能量換算値についても示した。ただし、太陽光とバイオマスについては、調査報告書内に示されていないので、ここに、表示できなかったが、太陽光については、表2に示すように、導入ポテンシャルが小さい上に、自然エネルギー有効比率の値が小さいので、他に用いることのできる再エネ(ここに示した風力)があれば、これを用いる必要性はない。また、バイオマスについては調査報告書(文献2)に含まれていないだけでなく、発電量としての量的な貢献も極めて少ない上に、同じエネルギー利用であれば、発電ではなく、灯油代替などの熱利用とすべきである(文献5 )。
 表3 に見られるように、各電力会社管内別の再エネの導入ポテンシャルには、大きなばらつきがあるものの、いずれの管内でも、かなりのポテンシャルがあると見てよく、その主体は風力が占めている。

表3 各電力会社管内の再エネ電力の導入ポテンシャルの発電可能量の計算値、億kWh
(環境省調査報告書(文献2 )の各再エネ電力種類別の導入ポテンシャル設備容量の値から発電可能量に換算した値)

注:
 
*1 :
風力(陸上)の年間平均設備利用率を25 %とした
*2 :
風力(洋上)の年間平均設備利用率を30 % とした
*3 :
風力(陸上)と風力(洋上)の合計
*4 :
中小水力(河川部)の値、年間平均設備利用率を65 % とした
*5 :
地熱(熱水資源開発)の値、年間平均設備利用率を70 % とした
*6 :
各電力会社別の再エネ発電量の合計
*7 :
各電力会社の原子力発電量(2010年度、文献6 から)
*8 :
各電力会社管内の風力(合計)を、それぞれの原子力発電量で割った値
*9 :
各電力会社の合計発電量から水力発電量を差し引いた値(2010年度、文献 6 から)
*10 :
各電力会社管内の再エネ電力(合計)を、それぞれの発電量(除水力)で割った値

各電力会社管内で風力が原発に、そして将来的には火力発電にも代替できる

 表3 には、原発事故前の2010年度の各電力会社管内の風力発電可能量(合計)の各電力会社管内原子力発電量の値(文献 6 から)に対する比率を、 風力/ 原子力比として、また、各社管内の再エネ電力(合計)の値の同年度のその会社の水力を除く発電量(火力発電と原子力発電の和)の値(文献6 から)に対する比率を、再エネ(合計)/ 発電量比として示した。
 この表3 を見て判るように、各電力会社管内の再エネ(合計)/ 原子力比の値が、一番小さい関西電力の値でも1.42 と、1より大きい値を示していて、それぞれの電力会社管内において、再エネ電力の導入ポテンシャルは原発電力を代替できることを示している。これは、再エネ電力の主体を占める風力発電の適地が、原発立地の海岸とほぼ重なると見てよいからであろう。いま、風力発電が利用できないのは、その適地が需要地から離れて存在するために、需要地までの送電線を新増設しなければならないとされているが、原発代替の風力発電では、送電線も既存のものを使うことができる。これに対して、FIT制度を適用した再エネの利用では、導入ポテンシャルが原子力発電量の1/2程度しかない太陽光(表2参照)を主体とした利用となっている(文献 1)。原発代替の電力を今すぐ手に入れるには、私が以前から主張しているように、先ず、現状で最も安価な石炭火力発電の速やかな新増設を行って、高価な石油やLNGの輸入量の増加に伴う貿易赤字の解消に努めるべきである。やがて、この石炭の輸入価格が上昇して、風力発電を利用する方が有利になった時に、その利用へと移行すればよい。
 現状で、発電量の主体を担っているのは火力発電である。2010年度の国内発電量合計の66,7 % が火力、24.9 %が原子力、7.8 % が水力である(文献6 )。人類が現状のエネルギーの大量消費を今後も継続すれば、この火力発電用の化石燃料は枯渇に近づき、その輸入価格が高騰することは間違いない。その時には、現在、資源量で評価される一次エネルギー消費の約1/2 を占める電力を化石燃料から、自然エネルギー(国産の再エネ)の依存に変換せざるを得なくなる。この時の再エネの主体は、導入ポテンシャルの大きい風力になる。
 次いで、表3 に示した再エネ/ 発電量比の値を見ると、それが1に近いか、あるいは、1以下の値を与えるのは、東京、中部、関西の3 電力会社の管内で、いずれも大電力を消費する地域である。これ以外の地方電力会社の管内では、この再エネ/ 発電量比の値が48.4倍の北海道電力を筆頭に、四国電力の4.5倍まで、いずれも再エネ電力に大きなポテンシャルがある。したがって、東京は東北と、中部は北陸と、関西は中国、四国、九州と広域化を図ることで、現状の発電量(水力を除く)を再エネ電力で賄うことができる。この再エネ電力の主体を占める風力は出力変動が大きいから、電力の平滑化のための蓄電設備が必要になるが、いますぐ再エネを開発するのでなければ、この平滑化のための揚水発電設備を整備することもできると考えられる。
 また、再エネとしての風力発電を用いるには、導入ポテンシャルの大きい北海道から海を渡って送電線を新増設しなければならないとされており、私もそう思い込んでいたが、上記したように、東北にあるポテンシャルを利用すれば、その必要はなくなる。

再エネの推進のための電力システムの改革の前提はFIT制度の廃止

 私がここで言う、再エネ電力の推進は、あくまでも、化石燃料の枯渇に備えての再エネの推進である。現在、電力生産の67 %を占めている火力発電のエネルギー源の化石燃料が枯渇に近づき、その輸入価格が高くなって、再エネを利用する方が日本経済にとって有利になった時の再エネ電力への変換である。私が以前から主張しているように、いま、原発電力の代替として、あるいは地球温暖化対策としてのCO2の削減のために、経済性を無視して進められているFIT制度の適用による再エネを、いま、推進する必要は何処にも存在しない。同時に、脱原発を唱える人々の要望によって進められようとしている(のではないかと考えられる)電力システム改革のなかで、第一に進められている各電力会社による地域独占体制が解消されれば、その時、その時で最も安価な電力としての再エネ電力を、各電力会社が、在来の地域独占の枠を超えて融通し合って消費者に届けられる。また、FIT制度を前提としている電力の自由化や発送電の分離を必要としない現状の一般電気事業体制のなかで、消費者に、そのときそのときの最も安価な電力を供給できる(文献7 参照)。

エネルギー政策の見直しのなかでこの貴重な調査報告書からの知見の活用を

 もともとは、FIT 制度の導入効果の調査を目的としたのに、その目的には合致しない結果になってしまった環境省の調査報告書(文献1)は、上記したように、現在、殆ど引用されることなく、その存在すら一般には知られていない。しかし、この調査報告書は、風力を主体とする再エネ電力が、原発電力の代替として、さらには、将来の化石燃料の枯渇に備えた火力発電の代替として用いることができるとの、この国のエネルギー政策の立案に際しての、非常に貴重な知見を与えてくれる。世界中が、経済成長を求めて、化石燃料の大量消費を継続すれば、その枯渇を心配しなければならない時が、今世紀中の比較的早い時期に訪れると予測される(文献 8 参照)。この調査報告書は、経済成長を、それを必要とする途上国にゆずって、国民が協力すれば、将来的には、自然エネルギー(国産の再エネ)に依存して、何とか平和な日本を維持してゆけるとの将来的な希望を与えてくれる。いま、原発事故に関連したエネルギー政策の見直しが要請されるなかで、この調査報告書から得られた再エネ導入に関して、ここに示した貴重な知見を、是非、活用して頂くことを強く政治に要望する。

<引用文献>

1.
久保田 宏:再生可能エネルギー固定価格買取(FIT)制度の即時廃止を、ieei 解説2014/03/28
2.
平成22年度環境省委託事業「平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書、平成23年3月」㈱エックス都市研究所他3社
3.
久保田宏:科学技術の視点から原発に依存しないエネルギー政策を創る、日刊工業新聞社、2012年
4.
澤 昭裕:知らないでは済まされないエネルギーの話、ワックス(株)、2012年
5.
久保田宏、中村元、松田智;林業の創生と震災からの復興、日本林業調査会、2013年
6.
日本エネルギー経済研究所編「EDMC / エネルギー・経済統計揺籃2012 年版」、省エネセンター
7.
久保田 宏:「電力システム改革」は「電力の全面自由化」――その前提条件は、再生可能エネルギー固定価格買取(FIT)制度の廃止でなければならない、ieei オピニオン2013/05/13
8.
久保田 宏:温暖化よりも怖いのはエネルギー資源の枯渇だ、ieei オピニオン2014/03/14

記事全文(PDF)