風力発電が原発に、そして火力発電にも代替できる

環境省の再エネ導入ポテンシャル調査報告書(平成23年3月)が教えてくれる


東京工業大学名誉教授

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再エネの推進のための電力システムの改革の前提はFIT制度の廃止

 私がここで言う、再エネ電力の推進は、あくまでも、化石燃料の枯渇に備えての再エネの推進である。現在、電力生産の67 %を占めている火力発電のエネルギー源の化石燃料が枯渇に近づき、その輸入価格が高くなって、再エネを利用する方が日本経済にとって有利になった時の再エネ電力への変換である。私が以前から主張しているように、いま、原発電力の代替として、あるいは地球温暖化対策としてのCO2の削減のために、経済性を無視して進められているFIT制度の適用による再エネを、いま、推進する必要は何処にも存在しない。同時に、脱原発を唱える人々の要望によって進められようとしている(のではないかと考えられる)電力システム改革のなかで、第一に進められている各電力会社による地域独占体制が解消されれば、その時、その時で最も安価な電力としての再エネ電力を、各電力会社が、在来の地域独占の枠を超えて融通し合って消費者に届けられる。また、FIT制度を前提としている電力の自由化や発送電の分離を必要としない現状の一般電気事業体制のなかで、消費者に、そのときそのときの最も安価な電力を供給できる(文献7 参照)。

エネルギー政策の見直しのなかでこの貴重な調査報告書からの知見の活用を

 もともとは、FIT 制度の導入効果の調査を目的としたのに、その目的には合致しない結果になってしまった環境省の調査報告書(文献1)は、上記したように、現在、殆ど引用されることなく、その存在すら一般には知られていない。しかし、この調査報告書は、風力を主体とする再エネ電力が、原発電力の代替として、さらには、将来の化石燃料の枯渇に備えた火力発電の代替として用いることができるとの、この国のエネルギー政策の立案に際しての、非常に貴重な知見を与えてくれる。世界中が、経済成長を求めて、化石燃料の大量消費を継続すれば、その枯渇を心配しなければならない時が、今世紀中の比較的早い時期に訪れると予測される(文献 8 参照)。この調査報告書は、経済成長を、それを必要とする途上国にゆずって、国民が協力すれば、将来的には、自然エネルギー(国産の再エネ)に依存して、何とか平和な日本を維持してゆけるとの将来的な希望を与えてくれる。いま、原発事故に関連したエネルギー政策の見直しが要請されるなかで、この調査報告書から得られた再エネ導入に関して、ここに示した貴重な知見を、是非、活用して頂くことを強く政治に要望する。

<引用文献>

1.
久保田 宏:再生可能エネルギー固定価格買取(FIT)制度の即時廃止を、ieei 解説2014/03/28
2.
平成22年度環境省委託事業「平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書、平成23年3月」㈱エックス都市研究所他3社
3.
久保田宏:科学技術の視点から原発に依存しないエネルギー政策を創る、日刊工業新聞社、2012年
4.
澤 昭裕:知らないでは済まされないエネルギーの話、ワックス(株)、2012年
5.
久保田宏、中村元、松田智;林業の創生と震災からの復興、日本林業調査会、2013年
6.
日本エネルギー経済研究所編「EDMC / エネルギー・経済統計揺籃2012 年版」、省エネセンター
7.
久保田 宏:「電力システム改革」は「電力の全面自由化」――その前提条件は、再生可能エネルギー固定価格買取(FIT)制度の廃止でなければならない、ieei オピニオン2013/05/13
8.
久保田 宏:温暖化よりも怖いのはエネルギー資源の枯渇だ、ieei オピニオン2014/03/14

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