容量メカニズムに関する制度設計WGでの議論で整理が必要なこと(第3回)

既設電源と新設電源を区別すべきか


Policy study group for electric power industry reform

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 第5回制度設計WGの事務局資料によると、第4回WGにおいて、委員から「容量市場(容量メカニズム)については、老朽化した既設電源が多く落札するなど、海外では必ずしも新規の電源設置のインセンティブになっていないという報告もある。入札の対象を制限する、償却期間に応じて価格に傾斜をつけるなどの工夫が必要ではないか。」という意見があった。

 海外の事例をみると、容量メカニズムの制度設計において、新設電源と既設電源を区別する例は、英国が現在導入に向けて検討中の仕組みで見られる。ただし、この場合、既設電源は容量市場の入札において、プライステイカーとして振る舞うよう求められる注1)ものの、支払われるkW価格は新設電源と同一であり、価格面で差別されるわけではない。他方、先行して容量メカニズムが導入されている米国のPJMでは、上記意見にある通り、「老朽化した既設電源が多く落札する」といった批判はあるようだ。しかし、既設電源を維持する方が全体としてコストが抑制されるのであれば、それは悪いことではない。

 仮に、容量メカニズムの制度設計において、新設電源と既設電源で支払われるkW価格を変えるとどのようになるか、ごく簡単なモデルで検討してみる。モデルの前提は以下である。

 需要:年間最大需要を2200万kW、年間最小需要を1000万kWとする。1年8760時間の需要を大きい順に並べてみると、図1のような右下がりの直線になるとする。この線を需要の持続曲線(デュレーションカーブ)と呼ぶ。数式化すると以下のとおりである。
 D=2200-0.137×T [0≦T≦8760] ← -0.137=(1000-2200)÷8760
 需要に不確実性はなく、この需要が必ず発現するとする。

図1:需要の持続曲線(デュレーションカーブ)

(出所)ミッシングマネー問題と容量メカニズム(第1回)

 供給:以下の3種類の発電技術を組み合わせで供給がなされるものとする。
 ベース電源 固定費 2.4万円/kW/年 可変費(=短期限界費用) 2円/kWh
 新設電源  固定費 1.6万円/kW/年 可変費(=短期限界費用) 3.5円/kWh
 経年電源  固定費 0.8万円/kW/年 可変費(=短期限界費用) 8円/kWh

 その他の前提:ミッシングマネー問題と容量メカニズム(第1回)と同じ

 上記は、ミッシングマネー問題と容量メカニズム(第1回)で使ったモデルのほぼ流用であり、ベース電源・ミドル電源・ピーク電源の組み合わせであったところを、ミドル電源を新設電源、ピーク電源を経年電源と呼び方を変えただけである。日本の場合、石炭火力や原子力は新設・既設を問わずベース電源として活用される一方、ミドル・ピークを担うガス火力・石油火力は、限界費用が安い(≒効率の良い)電源が新設されれば、稼働時間が比較的長いミドル供給力に入り、その分限界費用は高いが、固定費負担が軽くなった経年電源が稼働時間の短いピーク供給力に回る、というケースが一般的であるので、このような形にした。これら電源を用いて固定費を含むコストが最小になる電源構成は図2により、ベース電源が1,469万kW、新設電源が487万kW、経年電源が244万kWと求められる。

注1)自らは容量市場に価格ゼロで入札し、新設電源の入札により形成されたkW価格を受け取る。

図2


 上記の電源構成を所与として、電力市場の価格が限界費用で形成されるとすると、表1のとおり、各電源に8,000円/kW/年のミッシングマネーが発生する。同額を容量メカニズムにより補えば、この電源構成は安定的に維持される。

表1


 このモデルの意味するところを動的に考えれば、ある時点における電源構成が、ベース電源が1,469万kW、残り(731万kW)が経年電源であったとすると、市場競争を通じて、487万kWの経年電源が淘汰され、新設電源に置き換わって均衡する。その一方で、容量メカニズムにより全電源に対してミッシングマネーの補完がなされていれば、この電源構成が維持されることになる。

 次に、容量メカニズムにおいて、既設電源と新設電源で支払うkW価格が差別される場合を考える。例えば、ベース電源と新設電源には8,000円/kW/年のkW価格が支払われ、経年電源には支払われないとする。この条件下では、電源構成は図3のように、経年電源が新設電源に全て置き換わって均衡する。これは容量メカニズムによって、ベース電源と新設電源の固定費だけが見かけ上引き下げられたことによる。

図3


 他方、それによって得られる電源ミックスの総費用は、表2の通り7,791億円となる。表1の数字(7,694億円)よりも上昇しており、新規参入が進んだものの、社会的に無駄が生じたことになる。これは、既設電源と新設電源で支払うkW価値を差別したことに起因する。つまり、容量メカニズムにおいて、新設、既設でkW価値を差別することは、全体の電源構成の最適解と矛盾する仕組みを作ってしまうことになる。したがって、kWとしての信頼性、確実性などが同等であれば、支払われるkW価値は既設でも新設でも基本的に同じであるべきだ。

表2


 冒頭述べたとおり、「老朽化した既設電源が多く落札する」としても、全体のコストが抑制されるなら問題はない。そうではなくて本当に効率的な電源でも参入できないのであれば、勿論問題であるが、その場合行うべきは、支払うkW価格の面で新設電源を優遇することではなく、電気事業のリスクを緩和するという、容量メカニズム本来の目的に適った制度設計であろう。元来、kW価格は、市場にただ委ねただけでは乱高下しやすい。kW価格が不安定で収入が見通し難ければ、効率的な電源であっても投資にブレーキがかかる。つまり、kW価格を安定化する制度設計が重要と思料する。

<参考文献>
・経済産業省(2014)『第5回制度設計WG 資料4-4事務局提出資料 容量メカニズムについて
・電力改革研究会(2014) 『ミッシングマネー問題と容量メカニズム(第1回) ミッシングマネー問題はなぜ起こるか

執筆:東京電力企画部兼技術統括部 部長 戸田 直樹
※本稿に述べられている見解は、執筆者個人のものであり、執筆者が所属する団体のものではない。

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