オバマ政権の環境・エネルギー政策(その12)
上院による原子力廃棄物管理法案
前田 一郎
環境政策アナリスト
第四に、貯蔵施設と処分施設の建設促進プロセスを分離させるかどうかについて法案はまずは貯蔵施設を迅速に建設することとし、処分場建設までの時間を区切らないようにするため貯蔵量能力の上限を設けていない。ただし、処分場について実質的な前進が図られたと局長または監視委員会が決定できない場合は新たな使用済燃料・廃棄物の貯蔵施設への輸送は緊急時の輸送を除き、禁止される。ここで言う前進はミッションプランによって評価される。ミッションプランは局長により1年以内に準備され、スケジュールと里程標が詳述される。局長のミッションプランは下記を規定する必要がある。
- ○
- 2021年までに貯蔵パイロット施設を運転させる
- ○
- 優先度の低い使用済燃料・廃棄物貯蔵施設を2025年までに運転させる
- ○
- 処分場を2048年に運転させる。
軍事用の廃棄物についても新機関は処分責任を有する。エネルギー省はこれらの貯蔵のために処分場ができるまで新組織「原子力廃棄物管理局」のために手はずを整える。軍事用、民生用廃棄物についての輸送をエネルギー省から原子力廃棄物管理局に移管させる。
第五に、提案されている新設ファンドは上記のミッションプランを実現するために必要である。局長が施設を運転させない限り2025年までは費用はファンドに支払われない。また、既存の原子力廃棄物ファンドにおける282億ドルの監視も行う必要がある。
この法案は緊急性が重要であるが、それは米国の使用済み燃料政策に関する現在の袋小路状態からどう脱出するかが議会に大きな政策課題となっているかである。マコウスキー上院議員は、「中間貯蔵と恒久的処分場を前進させるため連邦政府はわれわれが使用済み燃料・廃棄物に対する義務を全うするという力強いシグナルを電力会社、消費者、公衆に伝えることができる」と鼓舞している。またマコウスキーは下院にあるユッカマウンテン選択肢を捨てることを主張し、「わたしはユッカマウンテンを恒久的処分施設として依然支持はしているものの、同時にその実現は今現在はありえないものと理解している。」と述べている。ユッカマウンテンライセンスプロセスは完全否定されたものとは理解されていないものの上院においてはこれを再開しようとする地合はない。(実際にリード院内総務が権力の中心に居てネバダ州が反対している限り、実質的にはユッカマウンテンは可能性はない。)
他方共和党が多数を占める下院はユッカマウンテンを選択肢に入れない使用済み燃料管理問題の解決には一貫して否定的である。そこで気になるのが上院が本法案を通過させた場合だ。その時は下院はこの問題の進展を優先させるために、ユッカマウンテンへ固執するのを止め、譲歩する可能性がある。本件を解決にもたらさなければならないという強い意思は産業界にも共有されており、原子力エネルギー協会(NEI)は、「この法案は持続可能で商業用使用済み燃料と軍事用高レベル廃棄物の安全で効率的管理の履行に向けて第一歩である。米国は新たな組織をつくり、そこに新たなファンドの活用を含めて成功に必要な権限を付与する必要がある」と法案を評価している。今後この法案がどのような道筋を辿って立法へ向かうか注目を要する。