カリフォルニア州の分散型太陽光発電を巡る動向


YSエネルギー・リサーチ 代表

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 本年3月時点で見ると、米国50州の内、29州とワシントンDCでRPS制度が導入されている。RPS(Renewable Portfolio Standard)は、電力供給事業者が供給する電力の内、再生可能エネルギー由来のものが占める比率の目標を設定し達成することを義務づける規制である。米国の場合、RPSは、国内の再生可能エネルギーの導入を促進する目的で1978年に制定された連邦法PURPA(公益事業規制政策法)によって生まれたものだが、制度化するかも含めてその内容は各州の裁量に任されていて、米国全体を対象にしたものではない。そのため、米国各州で制定されているRPSは一つとして同じものはないと言われるほど、目標数値も規制の方法も多様である。
 環境意識が高い州として知られるカリフォルニア州のRPSは、現時点では2020年に33%にするとされており、主に州内の大手民営電力供給事業者にこの目標達成を義務づけている。この目標は全米で最も高いものだと言われ、それに次ぐか同様に高いのはニューヨーク州が設定している2015年に29%、コロラド州の2020年に30%などがある。
 このRPSを達成するために制定されている施策の一つが、ネットメータリング(NM: Net Metering)と言われるものだ。主として住宅などの屋根に設置された太陽光発電など小規模分散型の設備普及を促進するために行われているが、再生可能エネルギー設備として認定を受けると、これで発電された電力が自家消費を上回る時には、配電系統に逆流させて電気メーターを逆転させることを認めるというものだ。月間、あるいは年間の総発電量が自家消費を上回る場合には、その超過分はクレジットとして繰り越しされたり電力事業者が所定の価格で買い取ったりすることになっている。
 カリフォルニアの場合、このNMは電力消費者が所有する1~1,000キロワットの再生可能エネルギーを対象としているが、1996年に導入されて以来環境負荷を下げるエネルギーを生み出すとして市民に受け入れられてきた。ところが、この規制が2017年に期限が来ることになっているのがきっかけとなって、NMをどうするかが広く議論されるようになったのだ。最近太陽電池パネルの価格が急激に下がったことから、屋根設置の太陽光発電設備の件数が急激に増えるようになってきたのだが、その結果として、電力事業者と消費者団体からNMに反対する声が大きくなってきたのである。電力事業者は、配電線の末端にある建物の屋根に太陽光発電設備が増えると、電力供給の安定性を維持するために配電系統の増強をしたり制御の方式を変えたりしなければならず、それに要するコストが急増するのに耐えられないと主張する。また、公平性を重視する消費者団体は、裕福な人しか取り付けできない太陽光発電のNMは、電力事業者の売上げ減や系統への投資のために電気料金が上がることになり、設備を取り付けられない低所得層がそのコストを負担することになるから、社会正義に反するので止めるべきだと主張する。この両者は、州議会の議員に対してNMに反対するロビー活動を強力に行うようになった。
 一方、太陽光発電事業者(設備製造、取付)は、NM制度がなくなれば事業が大きく縮小して継続できなくなるし、雇用も大きく失われることになると主張する。また、既に設備を保有している人達は、NMが認められなくなれば設置に投資した資金の回収ができなくなり、大きな損失を被ることになると大きな声を上げることになった。さらに、地球環境を守る意識の高い団体も、再生可能エネルギーの増強が失速することを懸念した。そして、NMを維持することの重要性、必要性を主張して歩調を合わせ、議員へのロビー活動を展開したのである。
 カリフォルニア州議会は、このような対立に応ずるために新しい法案(AB327)を準備することになった。その内容は、反対論、維持促進論双方に配慮した妥協的なものである。NMは継続し、顧客所有の太陽光発電設備設置に制約をかけないようにしながら、電力事業者が負担するコストを代替させるために全ての電力需要家に一定の賦課金を義務づけるというものとなり、賛成多数で可決されたこの法案は、この10月にブラウン州知事がサインして発効した。
 内容を少し具体的に紹介すると、電力の家庭用顧客は、月額10ドルを上限とする定額を通常の電気料金に上乗せして支払うが、低所得者には、この額を5ドル以下とする。電力事業者はこの賦課金を顧客所有の小規模太陽光発電設備増加に対応するのに必要なコスト回収に充当することになる。さらには、この毎月の賦課金は、消費者物価指数に対応して上げることができることになっている。また、これまでのNM制度において、電力事業者には供給ピーク負荷の5%まで顧客所有の設備を受け入れる義務があるとしていた上限を撤廃した。その結果、これからこのような小規模分散型の設備が急増することも予想され、その時には、現在2016年に25%、2020年に33%とされているRPSを上げる(例えば2020年に40%)権限を公益事業委員会に与えている。
 この新しい州法は、社会的な公平性に配慮し、電力事業者のコスト負担が課題にならないように配慮したものだが、基本的には再生可能エネルギーの促進という方針を強化するものとなったと言える。この法律は、同じような問題に対応せざるを得なくなっている他州が参考にするモデルとなる可能性もあると言われている。
 昨年日本に再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)が導入されてから、太陽光発電の設置規模が急増し、その電力購入価格の妥当性と社会的公平性に疑問も出るようになっている現状から見て、遠からずFITの適用が太陽光発電から外される可能性がある。太陽光発電設備のコストが急速に下がりつつあるからだ。その時にはいま米国で見られるようなNMに移行することが想定されるが、カリフォルニア州の対応策は、念頭に置くべき他山の石となる側面があるかもしれない。

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