オバマ政権の環境・エネルギー政策(その10)

ブッシュ政権で進んだ原子力政策


環境政策アナリスト

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再生可能エネルギーへの政策支援

 米国の再生可能エネルギーの流れは、前節で触れた1978年の公益事業規制政策法(PURPA)に規定された適格認定設備(Qualifying Facilities, ここでは単にQFと呼称)で多く再生可能エネルギーを採用したことに始まる。電力会社はQFから回避可能原価(Avoided Cost)で電力を購入することが義務付けられたため再生可能エネルギーは促進された。
 さらに前述の2005年エネルギー政策法では、風力、地熱、バイオについては最初の10年間においてkWh当たり2.2セントの生産税控除が導入された。元来生産税控除は1992年エネルギー政策法で取り入れられた政策であったが、暫定的な措置であった。しかし、その後、議会によって再生可能エネの追い風に乗って継続が決まってきた。発電電力量にkWh当たり2.2セント乗じられた額が法人税から控除されるという風力事業者にとっては有利な税制であった。ただし、生産税控除の問題点もあった。それは相当大きな利点があるのでそれなり規模の法人税負担をしているところでないとこのメリットを十分供与できないという点である。具体的には電力会社系のしかも大所帯の会社、たとえばFlorida Power & Lightの再生可能エネルギー部門(Nextra今ではグループの会社名)などである。中小のデベロッパーは自ら開発したにも関わらずこれら大手と組まないと生産税控除のメリットを十分活かすビジネスモデルが成立しない。
 州レベルのRPS(再生可能エネルギー使用基準)は29州およびワシントンDCで導入されているが、これと生産税控除が米国の再生可能エネルギーの普及のふたつの大きなドライビングフォースであった。しかしながら生産税控除が期限を迎えそうになると一気に萎み、延長されると再び盛り返すということを繰り返してきた。

 すなわち生産税控除は短期的な制度として導入するだけでは再生可能エネルギーを安定的に増加させるのは難しい。「憂慮する科学者同盟」は再生可能エネルギーを増加させようとする立場から生産税控除の問題点を指摘している。実は風力発電のための生産税控除は2012年末に終了する予定であった。そして予定どおり一度終了した。しかし、その数日後議会で復活が決定された。こうした最終の逆転延長は逆にその不確実性からデベロッパーをしてプロジェクトの開始を躊躇させざるを得なくする。つまりファイナンスの準備もできず、政治次第で取り扱われては投資のためのビジネスモデルを組みにくい。2013年1月風力発電の生産税控除は「財政の崖」回避に向けた法案可決によって議会と政権の妥協のひとつして1年間の期限で復活した。このように政治の取引材料に使われるのは決して制度の定着につながるわけではなく、むしろ上記の図で示した傾向のとおり大変見通しのきかないものとなるだけである。

再生可能エネルギーに対する政策支援は三つある。それは以下のとおりである。

生産税控除(Production Tax Credit) ・・・ 10年間に亘り2.2c/kWhの補助(主として風力)。1992年エネルギー政策法に基づく。最近は2009年のオバマ大統領の景気刺激策により継続されたが、風力は2012年末、その他は2013年末で終了の予定。

投資税控除(Investment Tax Credit)・・・・再生可能エネルギーへの補助。 2016年まで有効な投資税控除投資額の30%控除)

1603条TGP(Treasury Grant Credit) ・・・・2009年の景気刺激策で導入された財務省グラント。後者は小型の風力も対象となっていたが、2011年末で失効。

 これらのうち財務省グラントはすでに終了しており、生産税控除が終了予定が復活。投資税控除も「財政の崖」に向けた法案可決で残された。しかし、ここで指摘しておきたいのは米国の再生可能エネルギー導入は上記のような補助金への依存が高く、しかもこれが途切れるかどうかという見通しが不透明な中での投資となるために政策の影響を受けやすい状況にあるということだ。したがって技術革新によるコスト削減よりもロビーイングに重点が置かれがちになり、実際のコストは下がっていないという問題を有している。

Lawrence Berkeley National Laboratory “Tracking the Sun Ⅲ”

 上記の図は太陽光の据付コストの推移をみているが、2004年以降コストの削減に大きな変化が見えていないことが分かる。かつ2004年以降は生産税控除が途絶えることなく議会によって承認されてきた期間に対応する。これは据付コストを含めた全体のコストなので太陽光パネルの単体だけでをあらわしたものではない。据付のための付帯コストはむしろ賃金等の変化に対応する。再生可能エネルギーに対する政策支援は必要であるが、コスト削減のためには政策支援が施される太陽光パネル以外のコスト要素が大きいことを示している。
 もうひとつの問題は、風力の増大により、すでにいくつかの地域では系統に負担がかかっているところがでているということである。一例は、2008年2月26日テキサス州系統運用事業者(ERCOT)が、風力発電の出力低下により供給予備力が不足したときに計画されている緊急時負荷制限措置(ステージ2)を発動したことである。この日の夕方の需要の立ち上がり時に風力の出力が一斉に低下したことが理由であった。テキサス州は西側に風力発電が集中しており、需要は東側にあり、その橋渡しをする送電網が十分な対応ができていない。ERCOT系統運用部門の責任者であるサーソフ氏は、「今回の事象は、風力に特有の課題である。風は時々、前触れなしに突然やみ、系統を不安定にさせるため、系統運用者は常に注意を払い、迅速な対応を迫られている。今回のような事象は稀であるとはいえ、今後再び起こる可能性があり、すぐにでも検討しなくてはならない重要な課題である」と述べている。また、テキサス州電力実践グループ(Utility Practice Group)のメンバーで あるゲイ氏は、「今回の事象は、将来の需要を再生可能エネルギーだけに委ねるという考え方への警告である。確かに風力はクリーンエネルギーを供給するが、同時に、高価な送電線建設費用などのコストの問題や系統信頼度を脅かす技術的な課題もある」と語っている。ERCOTから得た情報ではその後、送電線強化、電圧の安定化などさまざまな対応を図っているとのことである。
 ただし、その取り組み実態はERCOTに限らず系統運用事業者のサイトはセキュリティの観点から海外からは開くことができないなど具体的な情報を得るに困難なことも多い。

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