元英国議会科学技術局事務局長Cope教授に聞く「環境・エネルギー政策における日英の未来」

(IEEI セミナー開催報告)


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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 10月23日、元英国議会科学技術局事務局長であり、ケンブリッジ大学クレアホール終身メンバーのDavid Cope氏をお招きしてセミナーを開催しました。Cope教授は、私が今年7月にロンドンを訪れた折に、当研究所ホームページに「私的京都議定書始末記」を連載してくださっているJETROロンドン所長の有馬さんにご紹介いただいたことがご縁で、今回のセミナー開催をご快諾いただいたものです。
 初めてお会いしたときからとても気さくでお話しやすいチャーミングな方ながら(その時の写真を資料の4ページ目に掲載して下さっています)、チェルノブイリ原発事故調査委員会英国代表や同志社大学教授などを歴任され、昨年日本政府から旭日小受賞の叙勲を受けられており、今回の来日中も様々なシンポジウムで講演されたり、政府関係者とディスカッションをされたりと大忙しだったそうです。また、2011年3月11日にも東京に滞在していたため東日本大震災を体験し、普段から持ち歩いていた放射線測定器で東京の放射線量を測定していたという大変ユニークな方でもあります。(以前から放射線測定器を持ち歩き、飛行機の中で放射線量を測定するのが「趣味」だったそうです。福島第一原子力発電所事故以前から放射線測定器を持ち歩いていた方に、私は初めてお会いしました・・)。「他国の政府は科学的ではない避難指示を出して、日本に滞在していた自国民を飛行機に乗せ無駄な放射線にさらしたが、英国政府はそうした過ちは犯さなかった。」とおっしゃっていましたが、そうした英国政府の冷静な対応の背景には、議会アドバイザーとしてのCope教授の存在があったのかもしれません。
 エネルギー政策への関心が高く様々な環境技術を持つ産業界の皆さんにお集まりいただき、ディスカッション形式で進められたセミナーの様子をご紹介します。


 まずCope教授から日英の関係の深さ、長さについて幾つか事例を挙げてご紹介がありました。続いて、9月末に承認されたIPCC第5次評価報告書、第1作業部会報告書(自然科学的根拠)に触れ、温暖化対策を進めなければかえってコスト高となるとしながらも、2℃目標(産業革命以前と比べて気温の上昇幅を2℃以内に抑える)は達成が相当困難な目標であり、現実的で市民に受け入れられる政策としていくことが重要とのお話がありました。こうした議論の際に、例えば「dangerous」といった言葉を使うことは誰にとってのどのような危険かが非常に曖昧であるため、議論を非科学的なものにしてしまう恐れがあるので、できるだけ避けるべきであるというコメントは、長年経験に基づいた、現在の日本に非常に大きな意味を持つアドバイスであると感じました。
 また、話はイギリスが現在進めるEMR(電力市場改革)に転じ、全ての施策が成功したわけではなく、一部には確実にやらないほうが良かった政策もあったとのこと。どのような施策が採られたのかはこのセミナーに先立って行われた「月刊ビジネスアイエネコ」(12月号)でのインタビュー記事で詳しくご紹介頂く予定ですが、省エネ推進の取り組みを求められた電力会社が消費者に無料で電球を送りつけ、結局使われない電球の山ができたといったようなこともあったそうです。EMRについては、2011年7月にその課題を指摘する報告書がまとめられ、2012年5月にエネルギー法改正が議会に提出されました。この改正により、原子力発電に固定価格買取制度を適用すること(FIT-CfDの導入)、発電容量市場の創設などが打ち出されましたが、これまでのEMRで生じてしまった歪みを是正する施策が進められているといえるのかもしれません。
 日本では電気事業法改正案が衆議院を通過、これからいよいよ電力システム改革に乗り出していくことになるわけですので、Cope教授の「日本政府には、英国を含めて他国の失敗事例によく学んでほしい」とのコメントがとても重く響きました。電力システムという一つの「システム(体系)」のバランスを保ちつつ、消費者にとって利益ある改革をどう成し遂げるべきか、先人の成功・失敗によく学ぶ必要があるといえるでしょう。
 その中で、ちょうど25年ぶりの原子力発電所の新規建設を決定したイギリスの状況についてもご説明いただきました。東電福島原発事故の後も、イギリスの世論調査では原子力発電に対する支持は変わりなく、むしろ支持率が上がっているとのご紹介もありました(このデータは英国原子力産業協会がまとめられたレポートのP31にも紹介されています)。特に原子力発電所立地地域では支持が高く、遠隔の大消費地で反対の声が強いということは日本とも共通しているそうですが、イギリスでは「チーフサイエンティスト」と呼ばれる立場の方が、市民の科学的判断力向上に大きく貢献しているとのことです。
 イギリスは日本と同じく島国で、他国との連系線はフランス、オランダ等との海底ケーブルがあるもののそれほどの送電容量は期待できず、また、資源についても日本よりは状況は良いものの、北海油田・ガス田は今後枯渇していくことが予想されています(Cope教授によれば、イギリスの場合はノルウェーという「石油・天然ガス資源の埋蔵量が非常に豊富な友好国」が隣にあるので自国資源の枯渇はあまり心配されていないとのことでしたが)。再生可能エネルギーを導入した時にどう系統の安定性を保とうとしているのか、あるいは、エネルギーセキュリティが非常に重要であるなかでエネルギー政策の3Eをどうバランスさせていこうとしているのかなど、日英には今後も学び合う点が多くあると感じました。
 Cope教授の詳しいインタビュー記事は、月刊ビジネスアイエネコの2013年12月号(2013年11月28日発売)、2014年1月号(2013年12月28日発売)の2号連続インタビュー特集で掲載されます。イギリスのエネルギー政策の最新状況や海外から見た東電福島原発事故について、また、今後の温暖化対策について忌憚のないご意見を聞かせてくださっていますので、ぜひ御覧ください!

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セミナー資料(PDF)