ドイツの電力事情⑤ -送電網整備の遅れが他国の迷惑に-


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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 太陽光、風力などの再生可能エネルギーは基本的に「太陽任せ、風任せ」であり、間欠性電源と言われる。間欠性電源の導入量が増えるとそれまで見えなかった(正確には、見てこなかった)コストや問題が発生する。その一つが、主として風力発電の大量導入に伴って必要な送電線の整備、もう一つが、太陽と風のご機嫌が悪かった時に備えて人間がコントロールできる発電設備の維持である。ドイツでは固定価格買取制度によって、再エネの大量導入には成功したが、それによってもたらされるこの二つの問題も顕在化してきている。今回は、送電網の整備の遅れによって生じている問題を紹介する。

 太陽光や風力が大量導入された場合、それが系統の安定運用に与える様々な影響については、平成22年1月に電力系統利用協議会が出した報告書に詳しい(http://www.escj.or.jp/news/2009/20100224.pdf)が、一般的に認知されていない事象として、例えば電力需要の少ない時期にはベース供給力(自流式水力や火力の最低出力、震災前であれば原子力など)と太陽光・風力による発電量が需要を上回ってしまい余剰電力が発生する可能性が指摘されている。電気は基本的にためておけないので、需要と供給のバランスを一定に保つ必要がある。需要が多すぎても供給が多すぎても、周波数のバランスが崩れ、停電に至ることもあるのだ。そのため、間欠性電源はその導入と並行して送電網を整備し、生みだされる電力を「大きなプール」で吸収することが必要になる。
 ドイツの状況を見てみると、2010年の東ドイツ地域の最大電力は1,043万kWであるのに対し、導入された風力発電の設備容量は1,104万kWになっている。同年の風力発電最大出力は821万kWで、電力需要を風力発電出力が上回る時間帯も発生しており、東ドイツ地域のみで需給バランスを維持することが困難な状態になっている。

 欧州の送電会社は自エリアの需給バランスを維持することを義務づけられており、ドイツの送電会社4社は相互協力を重ねてなんとかドイツ全体では概ね需給バランスを維持しているが、特にポーランドやチェコなど、送電線の連系した隣国に安定供給維持を目的とした送電容量の上限を超えて電気の流れが発生しており、10月26日付ブルームバーグでも「ドイツの風力発電による負荷で、東欧諸国が停電の危機」と指摘されている通り、東欧諸国での安定供給を困難たらしめているのだ。

 ドイツ南部工業地帯への送電線整備が進めば、自国(北海沿岸の風況が良い地域)で生みだされた電力を自国内で消費する「地産地消」が進むが、送電線の整備の遅れは著しい。景観の悪化による地価下落や送電線の電磁波による健康影響を懸念する地域住民の反対が強いためで、今後10年間で約3,600kmもの送電線整備が必要だとされるなかで、2006年からの5年間で整備できた送電線はわずか90kmにとどまっている。
 これは対岸の火事ではない。日本における風力発電の適地は、北海道や東北の一部だが、送電線がぜい弱な地域でもある。そこで政府は風力発電導入促進のために地域内送電線建設を拡大する方針だが、そもそも北海道は最小需要(最も電力需要が低い時の需要量)が本州に比べ小さいため、風力発電の導入が順調に進めば、風力発電の出力が最小需要を上回る可能性がある。つまり、前述した風力発電導入によりドイツで発生した諸問題が、北海道ではかなり早い段階で顕在化することを意味している。
 送電網の整備に必要なコストは、地内の送電網整備にかかる費用だけで3,100億円程度、北海道と本州を結ぶ 北本連系線等基幹送電網を整備するには、1兆1,700億円程度が必要と試算 されている。しかしながら、政府のコスト等検証委員会は当該費用を含めずに発電単価を比較しているのだ。
 エネルギー政策の選択に当たっては、その経済的負担も含めて国民的コンセンサスを得る必要がある。当然見込むべきコストを見せないまま議論が進めば、将来多くの国民が「こんなはずではなかった」と思うようになるだろう。その時になって「聞いていなかった」と言っても負担するのは我々国民である。海外の事例に良く学び、慎重な進路選択をする必要がある。

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