PM2.5連載企画 スペシャルインタビュー
公益社団法人大気環境学会会長/愛媛大学名誉教授・愛媛大学農学部生物資源学科大気環境科学教授 若松 伸司氏
「PM2.5問題の今」を聞く
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
PM2.5対策の取り組みは、国際協力が難しい側面も
――PM2.5削減に向けて、どうしたら良いのでしょうか?
若松:PM2.5を下げるためには汚染物質を下げていかなければなりませんが、この原因物質をどれくらい減らせばPM2.5がどれくらい減るかは、発生源と気象条件を全部含めたシミュレーションモデルがどうしても必要です。一番効率のいい対策の仕方を探っていくのがこれからの課題です。
空気は国境がありませんので、いくら日本だけで検討しても、日本の外から入ってくる空気がどう変わるかといった情報がないと全体の対策ができません。やはり中国も含めたアジア地域全体を含むような枠組みの中での対策シナリオを考えることが、非常に大事になると思います。国際協力のもと、気象を正しく予測し、反応の部分をシミュレーションし、発生源をどう抑えるか、どこからどういったものが出ているかをきちんと調査して、それをモデルに入力するのが一番難しいところでしょう。
――正しいデータを集めるのは大変そうですね。
若松:二つ方法があり、一つは実際そこに行って測ること。あとはそれぞれの生産活動からどれくらい出るかを予測して積み上げていくことです。その他にも人工衛星を利用したリモートセンシング等の方法もあります。様々な方法を駆使し、発生源がどのくらい実際あるのかを系統的に調査していくことが重要です。
――具体的に動き出しているのでしょうか?
若松:環境省が中心となって動き出してはいますが、一番難しいのが国際協力の部分です。中国などの協力がないと、日本にどういった空気が入って来るかという情報が今のところ限られているので、そこをどう把握するかが一番難しいですね。
今回のこのPM2.5にしても、たまたまアメリカ大使館が測ったデータが我々も手に入ったのですが、中国側からは、なかなか多くのデータは出てきません。アメリカ大使館は自分の大使館の中に測定器を持っていて、中国にいるアメリカ人の健康管理をするという目的もあり測っているのだと思います。
日本の場合は、大気汚染測定局の「そらまめ君」というシステムがあって、全国2000か所近くで測定点があり、今日の濃度がどれくらいかというデータをオープンにしていますが、中国での測定結果は全くオープンになってないので、良くわからないというのが実態です。
――中国から情報公開がされていないわけですね。
若松:PM2.5対策の取り組みが中国にメリットがあることを理解してもらい、政府間で協力し合って進めていくべきです。私たちも中国や韓国と共同研究をやっていますので、北京に行って共同で調査を行う予定です。まずは事実を明らかにして世論を動かしていくというのは研究者の一つの役割ですので、進めて行こうと思います。
ただ中国、韓国、日本の間では環境問題以外にも国家間で難しい問題を抱えていますので、どれくらい政府レベルとして環境に関する共同作業ができるかは、私自身は当事者ではないのでわかりません。やはり外務省を中心として、アジア地域を一つの大気圏としてお互いに各国が共同し合ってやっていくとうことを、ぜひ日本から提案してほしいと思います。