PM2.5連載企画 スペシャルインタビュー
公益社団法人大気環境学会会長/愛媛大学名誉教授・愛媛大学農学部生物資源学科大気環境科学教授 若松 伸司氏
「PM2.5問題の今」を聞く
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
日本の大気環境の状況は?
――日本のPM/PM2.5の大気環境はどのような状況でしょうか?
若松:もともと昔から大気中に含まれている粒子が健康影響によくないことはよくわかっていて、10μm以下の粒子に関しては環境基準があり測定されています。今回の中国のPM2.5高濃度問題から、最近では自治体が測定器を増やしていますが、SPM(※浮遊粒子状物質・10μm以下のもの)に比べるとPM2.5のデータはまだ十分得られていません。しかし1月以降、日本での濃度はだんだん下がってきています。
――PM2.5濃度の地域性はどうでしょうか?
若松:季節によりますが、今回の北京の高濃度や黄砂の影響に関しては、東日本よりも西日本の方が特に冬と春は濃度が高いというのは言えると思います。ただ東京や大阪も大気汚染の濃度が高くなる時はPM2.5の濃度も上がりますので、中国からの影響があるときは西日本の方が高いですが、それ以外の時は大都市地域の方がPM2.5濃度は高くなることが多いです。
――都市部の方が国内の発生源による影響を受けるのでしょうか?
若松:光化学スモッグが高くなる時はPM2.5濃度も高くなります。春と冬と夏とでは発生源が違うので、対象となる物質が違ってきます。春の時期の黄砂、また春や夏の光化学大気汚染についてはかなり研究されており、その原因となるガス状物質、たとえばNO2やSO2などのガス状大気汚染物質が光化学反応により環境中で粒子に変わるためPM2.5濃度が高くなることが分かっています。
PM2.5対策は総合的に行う必要がある
――PM2.5問題は複雑にさまざまな要因が絡み合っていますが、どのような対策が必要でしょうか?
若松:特に一次汚染物質のように発生源がはっきりわかっているものは対策が比較的取りやすいのですが、二次汚染物質はいろいろな物質が絡んでくるので、対策を総合的に行う必要があります。
一次汚染物質としてVOC(揮発性有機化合物)の例をあげると、よく知られているものにシンナーなどの溶剤があります。このなかで一番危険性の高いのはベンゼンで、以前はガソリンにも結構含まれていましたが、最近は対策が進み減ってきています。
一方、二次汚染物質としてVOCは人間活動と同じくらい植物からも出ています。森に入ると森がちょっと霞んでいる感じがすることがありますが、あれはVOCが粒子になったものです。VOCがあると、燃焼過程で出てくるNO はオゾンを消費せずにNO2になることが出来ます。NO2に紫外線が作用してオゾンが発生しますので、オゾンができる循環が生まれます。オゾンが増えるとPM2.5が発生しやすくなるので、有機エアロゾルの原因であるVOCを下げなければなりません。
――身近なものにもPM2.5発生の原因となるものがあるのですね。
若松:VOCは、いろんなものに含まれていますので対策は非常に難しいですね。
――都市化の中で代替物質を開発しなければ、根本的な解決は難しいのでしょうか?
若松:そうですね。VOCには色々な成分が含まれていますが、それぞれの物質の有害性、反応性、存在量が重要になります。2つ側面があり、ひとつはそれ自身で有害なもの。例えばベンゼンとかアルデヒドなど発がん性の高い物質が、これに相当します。もうひとつはオゾンを作る役割りが高いものです。VOCは有害性と反応性の両方を考慮して対策していく必要があります。
環境中のVOC濃度はこの10年くらいで4割くらい下がっています。VOC濃度は下がり、NOX( NOX(窒素酸化物)=NO+NO2)濃度も下がっているのですが、オゾンだけは下がっていません。これが不思議な話でして、オゾンの原因物質はNOXとVOCであるのは明らかですが、組み合わせによっては原因物質を減らすと却ってオゾン濃度が増えてしまうことがあり、これを非線形性と言っています。
1940年代に光化学オゾンが問題になってから、世界各国で継続してオゾン対策が取られていますが、なかなか下がっていません。濃度があるレベルからなかなかそれ以下にならないという性質があるので、今後の大きな問題としては、このオゾンの問題があります。