第5回 大阪ガス NEXT21


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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 社員が実際に居住し、実証実験を行う施設として今話題の、大阪ガス株式会社のNEXT21。毎日100名を超す見学者が訪れるという人気の施設にお邪魔して来ました。
 大阪市天王寺区の普通の住宅街に突如現れる、緑豊かで不思議な作りの建物。マンションというより、スタジオジブリのアニメーションに出てきそうなお城とでも言ったほうが良い雰囲気です。このNEXT21は、今から20年前、近未来の都市型集合住宅のあり方について、環境・エネルギー・暮らしの面から実証し、提案することを目的に建設された「実験集合住宅」です。ここに住む社員とそのご家族の暮らしを「実験台」として、様々な環境共生住宅のあり方を追求できるよう、当初からスケルトン・インフィル住宅として建設されました。そのため、5年毎にフェーズを区切り、それぞれの住戸をテーマに沿って生まれ変わらせた上で実験を続けており、長期優良住宅ストックとしての実証モデルとしての意義も持っています。1994年から2011年度まで3フェーズ、それぞれ16世帯が実際にここで生活してきました。今年6月からいよいよ第4フェーズに入り、「環境にやさしい心豊かな暮らし」をテーマとして設計されたユニークな住居での生活が始まります。「明日から社員とその家族が入居してくるんです」というお宅も含めて、全て見せて頂きました!
 外観からして圧巻なのはその緑の多さ。屋上には都会の真ん中であることも、集合住宅の屋上であることも忘れてしまうほどの広々とした緑地が用意されています。第4フェーズは、この緑地の半分をプロに、半分を入居している方たちの管理とすることで、緑地にどのような違いが出るか、また、緑地の管理が入居者のつながりを創出することにどのように寄与するかも検証されるそうです。緑地に何を植えるか、あるいは、水やりの分担などについて話たりする機会があれば、自然と「共同生活者」という気持ちが育まれるでしょうね。遠くに大阪城を望む緑豊かな屋上で、夕暮れ時の街を眺めているととても穏やかな気持ちになりました。

「ハウルの動く城」を思い起こさせる、緑あふれる住宅。
多くの野鳥がここに集まるそうで、この住宅の1階には
日本野鳥の会の大阪支部が置かれている。

 6階から下は、設定されたテーマに基づいてリノベーションされた住居。「”き”づきの家」、「ホームパーティの家」、「暖快の家」、「住み継ぎの家」、「余白に棲む家」など、ユニークな名前が並びます。
 「”き”づきの家」は、タブレット端末やテーブルディスプレイ等が備えられ、徹底的に使うエネルギーの「見える化」が図られています。入居者が楽しみながら、遊びながら自分たちの使うエネルギーを知り、自然と省エネ行動をとるよう促す仕掛けが詰まっています。こうした情報機器がたくさん設置されているので、入居されるのはITが得意な社員とその奥様、お子さんの3人家族だそうです。ITが苦手な私には猫に小判、豚になんとかですが、こんな家で育ったお子さんは「省エネの申し子」になりそうですね。

リビングのソファ前に置かれたテーブルは、
ディスプレイを操作することで現在の使用エネルギー・水をチェックしたり、
過去の使用状況を確認し、家族で節約について考えることができる。

 「余白に棲む家」は、共用部と居室のつながりを大切にした設計で、家の中でも閉鎖的な個室を極力設けず、風も光も人も通りやすい作りになっています。土間に相当するスペースやそれに続く和室、ロフトなど、ふとそこに座ってお茶を飲んだり話したりしたくなるスペースが沢山あって、近所に住む子どもはもちろん、友人知人たちが気軽に遊びに来る家になりそうですね。

ふと座ってお茶を飲みたくなるスペースがいっぱいで、
こんな家に住んだら出不精になりそうです。

 こうした外部とのつながりを創出する工夫は、子供が自立した後の団塊世代夫婦を対象とした「しなやかな家」にも盛り込まれており、お料理上手の奥様が料理教室を開催しやすいよう、広いキッチンと食事室、そして家族の玄関とは別にキッチンそばに出入り口が設けられています。
 こうして各住戸には、設計者のこだわりと遊び心、想像力と、最新の技術の粋が尽くされ、少し先の、でもなぜか懐かしいような近未来の集合住宅のあり方が提案されています。

広々とした食事室とそこに続くキッチン。
ひっそり自室にこもっていたい旦那様には、お客様と接することなく
玄関から出入りすることができる気遣いもうれしい。

 ただNEXT21のユニークさは、各住戸の内装だけではありません。集合住宅の特性を生かして、例えば4階では高効率な家庭用固体酸化物形燃料電池(SOFC)によって生み出された電力の融通や排熱の共用部空調への活用により、どの程度住棟内の省エネ化に寄与できるかなどの実験も行われるそうです。昔お味噌やお醤油を貸し借りしたように、同じ集合住宅内でエネルギーを貸し借りするようなイメージを持てれば、より楽しく節約に励めるというものです。
 その他、集合住宅全体で再生可能エネルギーとの共存が図られており、太陽光・太陽熱の導入だけでなく、各住戸の台所生ゴミを集めてバイオガスを発生させ、それを都市ガスと混ぜてガスエンジンコージェネレーションの燃料として活用してくれるとか。ここに住むだけで、ゴミを出すときのあの罪悪感が軽減できるなんて、本当にうらやましい。1994年の優良賞エネルギー設備顕彰優秀賞に始まり、省エネルギー建築賞(1996年)、日本建築学会作品選奨(1996年)、日本建築協会賞(1997年)、第25回環境賞優良賞(1998年)、都市住宅学会賞業績賞(2011年)などの華やかな受賞歴にも頷けます。
 もちろん実証実験ですので、各家庭の生活パターンが実験担当者には見えてしまうこと、また、アンケートなどの負担もありますが、それでもこのユニークで夢のあるNEXT21の入居希望は、募集の3倍程度の応募があるそうです。応募されたご家族のライフスタイルや志望動機などを聞き、設定されたテーマに最も合う方、ご家族に入居してもらうそうです。社員の家族も含めた「チーム大阪ガス」で、より良い近未来の都市型集合住宅のあり方を模索しているんですね。
 こうした生活に近いところでの実験に至る前に、膨大な基礎技術研究・開発も行われています。エネルギー技術研究所は、1947年に中央研究所として始まって以来66年、同社の基盤技術の強化や先進技術の探索・開発を担務しています。「何がネタになるかはわからない。テーマ選定についてはとことんディスカッションするが、とにかく自由に発想力を働かせて研究してもらっている」とは、エネルギー技術研究所企画チームマネージャーの門脇さん。研究所内はとにかく「ネタの宝庫」です。
 例えば、入社以来約10年コツコツと一人で騒音防止を研究し続けている金内さん。音源の周波数と空間の固有周波数が一致した時に起こる共鳴現象により騒音が増幅される場合があることを背景に、共鳴予測技術の開発や有効な対策技術の開発に取り組んでいるそうです。

「無響室」という実験施設の中で、手作り感漂う実験装置を横に
騒音発生のメカニズムとそれを抑制する手法について語ってくれた金内さん。
炎が見えるといかに癒されるかについて熱く語ってくれた、
モダン暖炉(ガスヒーター)開発者の白神さん。
暖炉点火前の語りがついつい長くなり、周囲の方に「はよ火着け!」と
突っ込まれていたのが印象的。炎が本当に好きなんですね。

 その他、茶かすやコーヒーかすなど単一のバイオマスを大量に確保してメタン発酵する技術について研究したり、土壌浄化に活躍してくれる微生物を探している方、炎の持つ癒し効果を活かせる新たな燃焼方式を研究して「モダン暖炉(ガスヒーター)」を開発している方、ガス調理の物理化学現象を詳細に調べることで、おいしさのメカニズムを解明しようとしている方。どなたも皆さん本当に楽しそうで、技術というのはこうした「これがあったらおもろい」「こんなんできたら楽しい」という発想から生まれるのでしょうね。
 それにしても大阪ガスさん、面白過ぎます、ユニーク過ぎます、やり過ぎです(笑)。こんな突き抜けた発想に、「やってみなはれ」と言えるからイノベーションが生まれるのでしょうね。大阪ガスの「環境力」、これからも楽しみに拝見します!

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