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電力カラーリングへの期待と誤解


Policy study group for electric power industry reform


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1.電力カラーリングが実現するサービス

 映画好きのAさんは最近、自宅に大画面テレビとホームシアターの設備を備えつけた。「大型テレビは電気の消費が増えるからエコじゃないね」と友人に揶揄されたAさん、「我が家の大画面テレビの電気は、北海道の稚内にある風力発電所から届いたものなんだよ」と得意気だ。
 電力カラーリングとは、消費者からみると色のついていない「のっぺらぼう」な電気を、どこから来たのか由来がわかるようにする取り組みである。「生産者の顔がみえる野菜」の電気版と言ってもよいだろう。これが実現すると、この例のように消費者の自宅にある家電製品ごとに、どの発電所の電気を使うかを選べるようになる。また現在、家電量販店はパソコンを販売するときに、インターネットサービスプロバイダの契約もセットにして値引きしているが、電力カラーリングの仕組みを使って、家電製品もその家電向けの電気の小売サービスとセットで販売するようになるかもしれない。
 インターネットなどITの世界では、情報の送り手と受け手、そしてその間をつなぐサービスプロバイダの関係がはっきりしている。電気も情報と同じようにやり取りできるようになれば、インターネットと同じように多様なサービスが実現できるようになるのではないか、いわば「電力のインターネット化」が実現するのではないかという期待が、特にIT関係者を中心に高まっているようだ。その一例が東京大学で検討されている「デジタルグリッド」である。

2.現在の電力システムの仕組み

 デジタルグリッドの概念を説明する前に、まず現在の電力システムの仕組みを見てみよう。これは大きなプールに例えることができる。実際、米国には「パワープール」いう言葉がある。需要家はこのプールの水(電気)を使い、発電所は使われた分の水を注ぎ込んでいるというイメージだ(図1)。パワープールが普通のプールと違うのは、その水位をいつでも厳密に一定に保たなければならない点にある。プールの水位は電気の周波数に相当しており、基準となる水位(50Hzもしくは60Hz)からのずれが大きくなると、需要家の機器に影響が出たり、発電所が停止したりするという不具合が生じるためだ。このため、いつも使われる量にあわせて、同じ量が発電されていなければならない。

図1. パワープールのイメージ

 また風力発電所の電気(緑色)も火力発電所の電気(黄色)も、一旦プールに注ぎ込まれると、プール内を光の速さで伝搬するから、瞬時に混ざり合ってプールから取り出す時にはどこで取り出しても同じ黄緑色になってしまう。一旦プールに入れるとどこから来た電気かもはや区別できないのだ。
 やや専門的になるが、電気には直流と交流の2種類があり、現在のパワープール内では基本的に交流が使われている。2つのパワープールをつなげて電気を融通する場合、交流でつなぐ方法と直流でつなぐ方法がある。
 交流でつなぐ場合は、隣接する2つのプールの間を水管で連結するのと同じことである。この場合、サイホンと同様の作用が働いて、2つのプールの水位(周波数)は一致する。この状態を「同期」と呼んでいる。また、さきほど説明したとおりプールの中の入った水は光の速度で混ざり合うから、プールAに風力発電所(緑色)、プールBに火力発電所(黄色)があれば、同期している2つのプール内の電気はすべて黄緑色になる。
 直流でつなぐ場合はパワープールAの交流の電気を一旦直流にかえてから、今度はパワープールBの周波数にあわせて直流の電気を交流にかえることで、AからBへの融通を実現している。これには交直変換装置という設備が必要になるが、プールの水のくみ上げを行う一種のポンプだと考えればよいだろう。また直流を介することでAとBの周波数が違っても融通が可能だ。この場合、Aの中にある風力発電(緑)の電気をBに融通すると、Aの水をポンプでくみ出してBのプールに入れた瞬間に色が混じりあうから、結局プールBから水を取り出す時には黄緑色になっている。このような理由で、厳密な意味でのカラーリングは困難となっている。
 補足すると、日本には9つの電力会社があり、それぞれが合計9つのパワープールを運用している(沖縄電力および離島をのぞく)。これらのパワープールは相互に直流や交流によって接続されている(図2)。交流で連結した場合は連結されたプールの周波数がすべて同じになるから、青森と横浜、名古屋と鹿児島の周波数は実はそれぞれ完全に同一になっており、全国には大きく分けて50Hzと60Hzの2つの周波数が、さらに厳密に言えば3つの独立した周波数が存在していることになる。(北海道と東京はともに商用周波数が50Hzだが、需要と供給のバランスが少しずれている場合、札幌が50.1Hz、仙台・東京が49.9Hzということがあり得るため)。

図2. わが国の電力システム

 また、たとえば西日本の60Hz系統については、同期した6つのパワープールを6つの電力会社が協調して管理している。それぞれのパワープールでは、各電力会社がプールの水位(周波数、6社とも同じになっている)と隣接のプールと接続している水管を流れる水量(地域間の融通電力に相当する)を監視して、これらが一定になるように自社のパワープールに水を注ぎ込むように調整しているのだ。東北・東京のパワープールも同様に調整されている。このような役割分担を決めることで、周波数が一定に維持され、また電力会社のエリアをまたぐ融通電力についてもあらかじめ設定した量に維持されることになる。

3.デジタルグリッドとは

 このように現在のパワープールの仕組みでは、発電所からの電気がプールに入った瞬間に混ざり合ってしまうので、厳密な意味でのカラーリングはできていない。ここで「厳密な意味で」としている理由は後述する。
 デジタルグリッドではインターネット(デジタル通信)と同様の仕掛けにより、カラーリングを実現しようとする。まず、現在のパワープールを小さなセルに分割する。そしてそのセル間を交流ではなく直流で接続する。そのための交直変換装置を、東京大学の研究者らはデジタルグリッドルーター(DGR)と呼んでいる注1)
 セル間をどのように電力が伝搬していくかを説明しよう。図3の右下のセルで電力を使用したいという情報(価格入札情報も含む)が出ると、セル間の情報網を通じてセル間を伝言ゲームのように電力要求情報が伝搬していく。このとき、DGRはまさにインターネットのルーターと同様に情報経路を制御(ルーティング)する役割を果たしている。電力の取引が成り立ちこの要求に答えるセルがあると(図中のPower Source CELL)、そこから電力を送るという回答が元のセルに返され、同時に電力の伝搬経路も確定する。そして経路上のDGRが動作して、送り側のセルのアドレス情報とともに、要求量の電力を伝送するという仕掛けである。これにより電力の受け手から見て、送り手が誰かがわかるわけだ。ちょうど、インターネット上を情報のパケットが伝送されるのと同じように電力を伝送することから、「デジタルグリッド」と名付けられたのだろう。

図3. デジタルグリッド中の電力伝送[1]

4.本当は難しい厳密な電力カラーリング

 デジタルグリッドではインターネットと同じように、ルーターを使って電気の流れを制御することで、電気がどこからきたのかをカラーリングしようとする。しかし、よく考えてみると、厳密なカラーリングはそれほど簡単ではない。
 例えばセルAからセルCに風力発電の電気を送るという要求と、セルBからセルDに火力発電の電気を送るという要求が重なると、途中のセルXの中で風力発電の由来の電気(緑色)と火力発電の由来の電気(黄色)が混在する。セルは小さなパワープールとなっており、そこに同時に注がれた電気は一瞬で混ざり合ってしまうため、セルXの電気は黄緑色になってしまう。これを避けようとすれば、すべての電力取引を別の時間帯や別経路(同じセルを通過しない)で送らなければならないことになるが、電気の取引は電力ネットワーク内では連続的かつ無数に行われるから、そのようなことは不可能だ。したがって、デジタルグリッドを使っても、実際には厳密な意味でのカラーリングは行われず、行いうるのは擬似的なカラーリングにすぎない。もし厳密にカラーリングを行おうとするならば、発電所と需要家を結ぶ専用線を敷設し、それらを交流・直流問わず、ネットワーク状には連結しないことが必要になるだろう。

図4. デジタルグリッド中で複数同時の電力取引

 また、実現性やコストの面でも、デジタルグリッドには大きな課題がある。デジタルグリッドのセルは、非常に小さいパワープールである。そこに風力や太陽光などから変動する電気が流れ込めば、セルの器が小さいために、その大きさに反比例して水位(周波数)は変動しやすくなる。このためセル内の水位を一定に調整することは、大きいパワープールの水位を調整するより遙かに難しくなり、そのための調整力(電力貯蔵装置)をセル内に十分に用意しておかなければならない。再生可能エネルギーを増加させるという課題については、既存のシステム上の対策よりもデジタルグリッド上での対策が高価となることを意味している。
 反対にパワープールを今より大きくすれば、そこに接続されている太陽光発電や風力発電の電気の流入量の変動がお互いに打ち消しあうことで、プール内に流れ込んでくる電気の総量に対する変動率は相対的に小さくなる。これを平滑化効果と言っているが、デジタルグリッドでは、現在のパワープールに比べて平滑化効果を活かしにくくなるので、再生可能エネルギーに対応するために必要になる電力貯蔵装置の量が格段に多くなる可能性が高い。欧米では電力取引の広域化や再生可能エネルギーの増加に対応してパワープールを統合させる方向で動いており、パワープールを細分しようとするデジタルグリッドの発想とは真逆のベクトル上にある。わが国の電力システム改革でも、広域的運営推進機関を作り、各社毎のパワープール運営をより密接に協調させようとしている。電力のカラーリングを導入しようとした動機として、冒頭述べたような再生可能エネルギーの利用を活発化させるということがあるなら、真逆を向いた検討であるということだ。

図5. 再生可能エネルギーの平滑化効果の例
注1)
デジタルグリッドの核になっている「ルーター」の考え方は、1995年に東北大学によって提案された「開放型電力ネットワーク」における「パケット電力ルーター」の概念とほぼ同様である。

5.電力カラーリングはすでに存在している

 デジタルグリッドにおいても厳密な意味でのカラーリングが困難である理由を説明したが、今でもすでに擬似的な電力カラーリングであれば存在している。
 各国で進む電力自由化により、一つのパワープールを複数の発電事業者や小売事業者が共有するようになった。擬似的であっても何らか電力カラーリングにあたる仕組みがなければ、パワープールの中で誰が誰に電気を送ったか判断できないので電力の取引が成り立たない。それでは、ある小売事業者が契約した発電所から自社の需要家に電気をどのように送っているだろうか。
 まず、パワープールが一つしかない場合を考える。発電所Aがパワープールに注ぎ込んでいる水の量と、需要家Bが使っている水の量が一致していれば、プールの水の水位(他の市場参加者)には影響がでない。また自社の需要家が使っている分にあわせてプールに水を注いでいるのだから、これをもって「AからBに供給している」と考えることができる。すなわち「Bに送られている電気は、Aが契約した発電所からのものである」と擬似的にカラーリングすることができる注2)
 次の発電所Aと需要家Bが別々のパワープールに属している場合を考えよう。このときも発電所Aからの流入量と需要家Bの使用量を一致させればよいのであるが、加えてパワープールの管理者が、2つのプール間を連携する水管(地域間連系送電線)にちょうどこの電力取引分の電気が流れるように調整を行う必要がある。
 このような擬似的カラーリングにより、需要家Bに発電所Aから電気が送られていると見なせるようになり、実際に電力取引が行えるようになっている。一つの具体例を挙げると、東京の新丸の内ビルの電気の一部は、上記の仕組みに基づいて青森県にある二又風力発電所から送られてきている(図6)。さらにこの発電所の電気は、電力取引所においてもすでに取引されている。このビジネスモデルは「生グリーン電力」と言われているが、その呼び名は現在の電力システムですでにカラーリングが行われていることを物語っていると言えるのではないだろうか。

図6. 生グリーン電力の仕組み(日本風力開発株式会社資料[2])

6.電力グリッドのスマート化

 デジタルグリッドの提案には上述のような課題があるが、デジタルグリッドの提案者は、既存のグリッドの抱える問題点について以下の論点もあわせて提示し、これらを克服するためにもデジタルグリッドに必要になるとしている。

① パワープールを大きくしていくと、事故が波及しやすい
② 電力の流れをトレースしにくい

① パワープールの拡大と事故波及の防止
 電力システムが1世紀以上前に誕生して以来、パワープールを大きくすることは規模の経済性を拡大する観点から推進されてきたが、最近では電力取引の広域化や再生可能エネルギーの拡大の上でもメリットがあると考えられている。反面、パワープールの大規模化にはデメリットも存在している。それは事故の影響も広範囲に波及しやすくなるということである。デジタルグリッドの研究者は、デジタルグリッドではあるセルに生じた事故がセルをまたいで伝搬しにくいので、事故波及を防止しやすいと主張している。
 特に欧米では広域的なパワープールの管理上の問題で、広域停電が何度も発生していることは確かである。日本でも広域運営推進機関が設立され、現在よりも広域的なパワープールの運営が行われることになるので、広範な事故波及を起こさない備えは十分行う必要がある。ただし日本の場合は国土が縦長であるために、電力会社のパワープールはくし形の形状で連系されることになり、パワープール間をつなぐ連系線の本数が少なくなるので、事故波及防止は欧米よりも行いやすいと考えられている。パワープールが大きくなれば事故が波及しやすくなるというのは少々短絡的に過ぎる。
 なお、東日本大震災のように遠隔地にある電源が大規模に被災して供給力が大幅に不足するような場合には、結局、発電所がおかれた太平洋側のセルから順番に停止していくことになるので、今のグリッドよりも波及しにくいとは言いにくいだろう。

② 電力の流れをトレースしにくい
 現在の電力ネットワークではネットワーク内の各所にセンサーが配置され、電気の流れが監視・制御されている。しかし需要家に近い配電ネットワークでは、従来は電気の流れが電力会社から需要家にむけた一方向にしか流れなかったこともあり、より大電力を送っている基幹のネットワークに比べるとセンサー情報が圧倒的に少ないことも確かである。
 配電ネットワークに分散型電源が増加していることから、その電気の流れをトレースできるようなセンサーネットワークを、配電系統にも具備しようとする取り組みが電力会社においては始まっている。
 また需要家が使用する電気についても現在は月間単位での使用量しかわからないが、電力会社が導入を進めようとしているスマートメーターが具備されてくると30分単位での電力使用量が自動で検針され、そのデータは需要家や需要家の許諾があればサービス・プロバイダーにも提供されるようになる。このメーターにより、需要家は従来の電力会社以外の新電力会社などからの電気の購入が可能になり、また再生可能エネルギーの電気を選ぶことも自由にできるようになるだろう。アグリゲーターなどのサービス・プロバイダーが、需要家が節電した電気(ネガワット)を電力取引所に売電するようなビジネスも可能になると思われる。

 このようなアーキテクチャーを一般的に描いたのが、図7のスマートグリッドの概念モデルだ。米国電気電子技術者協会(IEEE)が策定したものだが、スマートグリッドの米国内標準を定める米国国立技術標準研究所(NIST)、国際標準を定める国際電気標準会議(IEC)においても標準モデルとして参照されている。この概念はITの世界では標準的に用いられる多層構造で考えるとわかりやすい。一番下の第1層として電力伝送ネットワーク(物理層)、第2層として電力伝送ネットワークの各部の状態を監視・制御するためのM2M(Machine to Machine)のセンサーネットワークがあり、これにより電気の流れのセンシングや制御などが可能となる。電力取引のための擬似的なカラーリングはこの第2層の機能として提供できるので、様々なエネルギーサービスやアプリケーションは、これら2層の上に、第3層以上の上位層で実現されるわけだ。
 電力のカラーリングは発想としては面白いが、そこで考えられているサービスのほとんどは、このスマートグリッドの階層モデルで実現できる。デジタルグリッドではこれらのサービスの元になるカラーリングをより厳密化するために第1層(物理層)の仕組みから作り直そうとしているように見えるが、その実現のためのコストや課題に加えて、擬似的なカラーリングが第2層の機能として実現可能であることを考えると、何の意義があるのかがはっきりしない。むしろ日本が得意とする第1層の要素技術(系統技術、分散電源、電力貯蔵技術など)を活かすための第2層、第3層など上位層における技術やサービス創出に、限られた人的資源や資金を集中していくことが必要ではないだろうか。

図7. スマートグリッドの概念モデル(IEEE SmartGrid [3])
注2)
需要の細かな変動に対する微調整は、それぞれの小売事業者が調整するよりも、まとめてパワープールの管理者(系統運用者)が微調整する方が効率的である。このため、発電所Aから流入する電力量と需要家Bが使う電力量を30分単位で計量し、両者が一致していればよいとしている(30分以内の変動は系統運用者が調整)。
<参考文献>
 
[1]
デジタルグリッドコンソーシアム「デジタルグリッドとは」
http://www.digitalgrid.org/jp/about-digital-grid/technology
[2]
日本風力開発(株)塚脇正幸「風力発電事業の現状について」、経済産業省総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会(第23回)資料、平成20年3月14日
http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g80423b03j.pdf
[3]
IEEE SmartGrid
http://smartgrid.ieee.org/

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