同時同量(後編)
発送電分離を前提とした展望
電力改革研究会
Policy study group for electric power industry reform
前編で述べたように、送配電部門の中立性強化のために発送電分離をするのであれば、電力会社と新電力が異なる役割を分担する現在の同時同量制度は、必然的に中立な制度に見直さざるを得ない。
発送電分離下では電力・新電力は同じ役割を担う
それでは、具体的にどのように見直すのか。発送電分離による送配電部門の中立化に伴うものなので、電力・新電力は同じ役割を担うことが基本である。そこで、前出の表2を見ると、トレンド性のある変動の調整に対する役割が異なっているので、ここを揃えることが基本であろう。揃え方としては、①新電力が電力会社に合わせる、②電力会社が新電力に合わせる、③両者とも現状と違う別の方法で合わせる、の3種類が考えられるが、①はまず現実的ではない。海外、例えば欧州諸国で行われているのは、②である。すなわち、全ての系統利用者が、15分、30分、1時間といった、長めのタームで積分値を合わせればよいこととされ(つまり図2と同様のイメージ)、図2の青線と赤線のギャップは送電会社が埋める。この考え方で表2の内容を見直すと、表3になる。
(表3)同時同量制度の見直しの方向性の例
電力会社(発電小売部門) | 新電力 | ||
トレンド性のある変動 | 調整の目標 | 30分単位の積分値の一致 | |
調整主体 | 電力会社 | 新電力 | |
調整コストの出所 | 電力会社の発電費 | 新電力の発電費 | |
インバランス | 発生したインバランスは送電会社が調整し、電力会社・新電力はインバランス料金を負担 | ||
ランダムな変動 | 調整の目標 | 周波数の変動を±0.2Hz以内に抑制 | |
調整主体 | 送電会社 | ||
調整コストの出所 | 託送料金の一部として、電力会社・新電力とも同等に負担 |
欧州方式では駄目な理由
しかし、日本の場合、欧州と比べて系統規模が小さいことから、上記のような欧州の模倣では、おそらく電力品質は保てない。
図4は、欧州の系統(UCTE系統)における、ここ数年の需要期(11月から3月の平日夕刻:欧州の最大需要は通常冬の夕方に発生する)の周波数変動の実績を示している。
(図4)UCTE系統の冬季夕刻における周波数変動(各年平日の平均値)
(出所) UCTE AD-HOC GROUP, ‘FREQUENCY QUALITY INVESTIGATION’ EXCERPT OF THE FINAL REPORT (2009.3)
これをみると、毎正時のところで周波数が大きく変動していることが分かる。また、15分ごと30分ごとでも正時のところほど大きくないが、規則的な変動がある。この原因は、系統利用者が15分、30分、1時間といった比較的長いタームで積分値を合わせればよい、という緩い制約しかないことによる。一般に発電所は出力を頻繁に変更しない方が効率が良いので、例えば、図5のように、電力需要はなめらかに変動しているのに、電源は毎正時に階段状に出力を変えるだけ、のような運用をすると、図4のように周波数が毎正時に大きく変動することになる。図5の緑の線は、周波数制御のために用いるように予め確保している発電機出力の幅である。電力需要(赤い線)が毎正時付近では緑の線の幅を逸脱しており、そこでは周波数の安定に悪影響が及ぶ。
日本の新電力が実際に図5のように発電所を運用しているかどうかは定かでないが、少なくとも制度上の問題はない。もっとも、シェアが余り大きくない新電力だけが行っても周波数への影響は軽微である。しかし、欧州方式では、電力会社もこの様な運用をしても良いわけであるので、周波数への影響は無視できなくなる。図4は、欧州で冬の平日夕刻に、平均で0.06Hz程度の周波数の変動が毎正時見られていることを示しているが、欧州は日本の数倍の系統規模であるためにこの程度ですんでいる。日本で同様の状況になった場合の影響は遥かに大きい。例えば、東日本の50Hzの同期系統(東京電力エリアと東北電力エリアの合計)の系統規模は、欧州のUCTE系統の5分の1であるので、UCTE系統における0.06Hzの周波数変動は、東日本系統では、5倍の0.3Hzに相当する。これは、産業用需要家から即苦情が来るレベルである。
4月2日、政府は、2018~20年を目途に発送電分離の実施を目指す、電力システムに関する改革方針を閣議決定したが、実際実現するためには、発送電分離を前提として安定供給を維持する仕組みの構築が必須である。前回記事(停電と発送電分離を論じるための基礎知識)では、発送電分離下で現在の供給信頼度の高さ(停電時間の短さ)を維持するために、必要な検討課題を示した。他方、同時同量制度は、発送電一貫体制を前提に電力会社と新電力が異なる役割を分担する現在の仕組みから、全ての系統利用者が同等の役割を果たす仕組みに移行するが、その中で、電力の品質(安定した周波数)を維持していくことも、実はそれほど簡単なことではない。少なくとも欧州方式の模倣では全く駄目であり、図4で示した問題を未然に防止する、実現可能な方法が求められるのである。
なお、この点は、第11回電力システム改革専門委員会で電気事業連合会が提出した資料にも記載されている。併せて参照されれば有益と思料する。