第10回 経済同友会 環境・エネルギー委員会 委員長/帝人株式会社 取締役会長 長島徹氏
停滞し続ける日本経済を改革路線で再生する
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
規制緩和、改革、違うやり方で経済成長を図る
――環境と経済をいかにバランスよく両立させるかですが、日本では経済成長が停滞している状況が続いていますが、これについてはどうお考えですか?
長島:適切な経済成長が要ります。5%、6%といったレベルの新興国並みの経済成長はいらないし、もうできません。やはり先進国型の経済成長モデルがいるのではないかと思います。それが2%とか3%と言われている所以です。
――日本はGDPの伸び率が20年間で1.06%と停滞しています。イタリアでさえ2%なのに。
長島:日本は特に停滞したのです。先に行き過ぎて、そこに行った時の成長モデルでずっと続くと思っていた。だから改革が遅れたのです。民もそうだし官もそうだしも政府もそうですが、保守勢力が多いとそうなってしまいます。
――では、どうしたらよいのでしょうか?
長島:規制を緩和する、改革する、違うやり方をするということをしっかりやっていくことです。
――個人的というお立場でも結構ですが、例えば電力改革でしたら、やはり進めていくべきというお考えですか?
長島:これからは環境問題も含めて考えると、9電力会社が大量の電力を作り、一方向に供給する時代ではありません。原子力は国家の運営で、これは既存の大手電力会社が請け負ってオペレーションするというのは有り得るとしても、残りの20%の新しい再生可能エネルギーの部分は、小さいユニットのたくさんの集まりで成っていく方向で考えるべきです。地方や地域である程度完結できる形の集まりが日本中にあるような形にして、ある程度は「分散管理」にしていかなくてはなりません。
――再エネ発電の分散管理ですね。
長島:例えば北海道や東北の風力発電がたくさん発電したとしても、地方でつくって余った電気をどうするかが課題です。風力は電力の波があるので、それをある程度蓄電し、余った電気はどこかに売る仕組みが要ります。電力のデジタル化、電力のネット化をどうやって行い、分散管理するかを考えなければなりません。
各戸1軒1軒は、できれば太陽光発電で自分のところの電力を全部賄い、エネルギー・ゼロベースで自産自消し、余ったら売り、地域で地産地消して、そこで余ったらそれをまた売る、といった順番で仕組みを考える。スマートメーターを入れて見える化し、省エネしながら発電すると同時に、そのデータを自由に情報としてやりとりできるようにする。そうすれば、もう少し自由に電力のやりとりができるようになり、好きな発電(または配電)事業者から好きな電力を買うことができます。
――そのためには、やはり改革が必要ということですね。
長島:従来の電力会社が、どうやって新たなビジネスモデルを作っていくかということになります。電力会社は原子力事業を請け負うとしても、小さい発電会社との協業関係をどうするか、新しいビジネスモデルを作っていかなくてはなりません。発送電分離もひとつですが、多数の小さい発電業者との仕組みづくりを発達させないと、日本は世界の中で立ち遅れてしまいます。
またこれを逆手に取り、イノベーションとしてそうした分散型社会を作れば、世界のモデルになります。日本は国土も広くありませんし、多くのユニットの集まりでコンパクトにまとめればいい。ネット社会のように電力もICT化が不可欠です。無数の電力供給者と需要者の集まりをデジタル化して、よりフレキシブルな電力にしていくべきでしょう。
――国が先導して進めていくべきでしょうか?
長島:国だけではなく、民間参加型にしなくてはいけません。国にやってもらうといっても、国はうまくやるためのルールづくりで、実際のものは民間か個人がやるわけですから。