第10回 経済同友会 環境・エネルギー委員会 委員長/帝人株式会社 取締役会長 長島徹氏

停滞し続ける日本経済を改革路線で再生する


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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――住まいを省エネすると、全体的なエネルギー消費量は大きく減りそうですね。

長島:そんなの無理という前に、そういうことをやるべきです。年間電力消費量の1兆kWhの10%と言えば1000億kWhですが、今の日本の住宅5000万戸とオフィスビル、学校、などの1000万棟で省エネをやれば、それだけの電力消費を減らせる可能性があります。

 それから、日本では熱エネルギー利用がまだ十分されていません。排熱利用を進めるべきです。スカイツリーは地中熱システムを利用し、40%ほどのエネルギーをカットできています。冬は暖かく夏は涼しく過ごせます。熱利用としては下水もあります。下水は20度近くあるらしいですから、廃熱を利用しない手はないでしょう。

――下水の廃熱は全国にありますね。

長島:それが活かせていません。下水の流れているところにパイプを通し、その温度を取り出して戻せば、20度くらいの室内温度で年間を通して過ごせます。

――廃熱は利用しないと、もったいないです。

長島:創エネ、蓄電池による蓄エネ、それから省エネをやって、排熱などの熱エネルギーを利用して、全体のエネルギー消費量の2割は削減できるのではないでしょうか。個人的意見ですが、全体の2割を省エネし、電源のベストミックスは、残りの5割で火力発電、3割は水力を入れた再生可能エネルギー、2割を原子力発電にする構成がいいと思います。

――納得できる選択肢かと思います。

長島:火力発電については、石炭からシェールガス含めてLNGへとシフトして、相当CO2ガスの排出量を減らしています。しかし、炭酸ガスは出るので、これをどう処理するのか、それもひとつの大きな技術がないといけません。火力発電で使うエネルギーのひとつに水素エネルギーがあり、水素エネルギーをもっと活用しようという案も出ています。

――水素エネルギーの活用ですね。

長島:笑い話として聞き流していただいても結構ですが、南米のパタゴニアなど強風を常時活用できる地方で、風力発電機で電気を起し、さらにこの電気を使って水の電気分解で水素を製造します。水から取り出した水素は化合物にして、体積を500分の1程度の安定した液体の状態にして船で日本に運び、貯蔵し、日本でもう一度水素ガスに戻します。それを火力発電設備でガスの成分として、例えば2割程度の補助に使ってやると、その分CO2排出量は減ってきます。

 その他の水素の活用として燃料電池があります。ガソリンスタンド、水素ボンベなど、用途は広がりそうです。人間の知恵を合わせたら、世の中ずいぶん変わってくるのではないでしょうか。原子力についても、次世代原子力のようなものを自国だけでの技術開発が無理ならば、米国やインドなどと協力する形で、政府としてプロジェクトに参画してはどうかと思います。

――エネルギー問題の解決に貢献できる技術開発はいろいろありますね。

長島:CCS(二酸化炭素回収・貯留)は炭酸ガスを地上に出さない重要な方策のひとつです。CO2を使って化合物を作るといった方法、それから水中で太陽光と炭酸ガスを放り込んで藻を促進して作り、その藻からエタノールを取り出すバイオエタノール技術もあります。

 これは今はコストがかかって大変ですが、工業生産化できる技術ができるといいですね。あくまでイメージですが、直径1mくらいのガラス管かプラスチック菅をたくさん並べて横、もしくは下から炭酸ガスを供給しながら、太陽光かLEDで照らして藻の成長を促し、藻を取り出すことができるといいかもしれません。

温室効果ガス排出削減に向けて日本が貢献できることは

――温室効果ガスの削減について、日本はどのような貢献ができますか?

長島:90年比25%の削減目標については、いわゆる主要な炭酸ガス排出国も世界中で取り組むという前提ではありますが、その目標を2020年に実現するのは難しいと思っています。だから、ここまでならチャレンジャブルにできるという目標を設定し直すべきでしょう。経済同友会としても、この目標については時間をかけて考えていきたいと思っています。

 もうひとつの方策としては、排出量の二国間オフセット・クレジット制度を積極的にやるべきです。アジア諸国を中心に省エネ技術を移転し、その貢献分の排出量の権利を日本が取り入れるべきです。新しい枠組みで制度化を目指して、国際的に認められるようにしてほしいと思います。

【インタビュー後記】
時間があっという間に過ぎて、お話を伺うのが本当に楽しかった!というのが、インタビューを終えた素直な感想です。一つひとつのテーマについて、「こんなイメージならば、その技術は可能になるかもしれない」と例を挙げて話してくださいましたが、私にとって想像もつかないようなアイディアもありました。従来のやり方にとらわれない姿勢、発想の柔軟さには脱帽です。物腰穏やかにお話くださいましたが、「保守(守り)のままでは成長は停滞する」という言葉がいつまでも心に残っています。何事も必要あれば、改革を恐れず、前進しなくてはいけないのですね。日本再生に向けた直球の言葉の数々に元気をいただきました。

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