第9回 日本化学工業協会 技術委員会 委員長/三井化学株式会社 取締役 常務執行役員 生産・技術本部長 竹本元氏

環境問題のソリューション・プロバイダーとしての化学の使命


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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触媒技術、効率の高いビルディング技術、バイオ技術によりGHG削減

――化学産業が力を入れている技術のロードマップはどのようなものですか?

竹本:ICCAは今、今後の全世界のエネルギー消費とGHG排出削減にむけた取り組みの方法を検討するため、化学産業に関連の深い3つのGHG削減技術についてロードマップの策定を行っています。国際エネルギー機関や米国のSRIやドイツのDEHEMA等とともに作業しています。

 その1つは触媒技術で、新しい触媒技術を開発をして、エネルギー効率を上げていくということ。化学製品における製造過程のGHGを減らしていくため、ロードマップ策定に取り掛かっています。このロードマップは、化学産業自体のエネルギー削減のロードマップになります。

 2番目はエネルギー効率の高いビルディング技術です。化学製品を積極的に、断熱材や窓枠等に使用することにより、ビルのエネルギー消費を驚くほどの削減ができることを示しました。ビルの断熱材や窓枠からの放熱などを下げることにより、かなり高効率が達成できるロードマップになっています。昨年のCOP18のICCAのイベント会場でこのロードマップを世界の政策責任者に説明しましたが、高い評価を得ています。

 3番目はバイオ技術です。ICCAは、バイオ技術での化学の役割をSRIと共同で取りまとめ、その結果をIEAで議論し、輸送用バイオ燃料とバイオエネルギーのロードマップ策定作業に貢献しました。ロードマップのビジョンの達成に化学産業が重要な役割を果たすことがIEA発行の技術ロードマップレポートでも明らかになりました。

――化学産業自らのエネルギー消費対策はいかがですか?

竹本:化学産業自らのエネルギー消費やGHG削減を進めていくことも大きな方針になっています。化学産業の成果を述べます。ヨーロッパでは、1990年に比較してCO2を49%削減しています。日本では、エネルギー効率を16%改善し、GHGを17%削減しています。米国ではGHGを16%下げています。米国は化学産業の生産が39%増加していますので、GHG効率でいえば、実に39%の改善をしています。このように、化学産業はICCAを旗振り役として、世界で自らのエネルギー効率の改善に成果を挙げております。

三井化学のエネルギーと気候変動問題への取り組みや技術開発

――三井化学としてのエネルギーと気候変動問題への取組みについて伺えますか?

竹本:三井化学も、昨年の6月まではICCAの中で『エネルギーと気候変動』についての政策策定グループのリーダーとして、ロードマップ策定やc-LCAによるGHG排出評価のガイドラインの策定や取りまとめに尽力しました。昨年の6月に三菱化学にバトンタッチいたしましたが、国際的にも貢献を果たしてまいりました。

 三井化学としては、2007年に経営の基本的な骨格の中で、地球環境の課題に取り組むことを決めております。「経済軸・社会軸・環境軸」この3軸のしっかりバランスの取れた経営をすることとして、目標を定めています。環境軸では、生産での環境負荷を低減することと同時に、地球環境課題に貢献する製品を積極的に提供することを目標としております。 

――三井化学の省エネ対策はいかがですか?

竹本:温室効果ガスの削減も中期的な目標を立てており、エネルギー削減の成果としては直近の5年間で生産に用いるエネルギーを絶対量で20%程度削減できました。リーマンショック等もあって稼働が若干下がった部分もありますが、省エネルギー活動を徹底的に行った成果と考えております。

 90年をベースで比較すると、エネルギー原単位指数という方法がありますが、エネルギー原単位として、例えばあるプラントが2つできたら実際には排出量が倍になりますので、絶対量の比較と言うのは技術の改善を表すのにあまり適切ではないと思います。1つの製品単位当たりどれだけエネルギーを使っているのかという指数、原単位指数を90年比で見ますと、13%程度改善して、90年に比べて87%になりました。

――13%の削減は大きいですね。

竹本:省エネルギーに向けて、当社の得意技術である触媒技術を駆使して、例えば、一つはアクリルアマイドの生産では従来は銅触媒を使っていましたが、バイオの触媒に切り替えて、かなり運転条件も穏和になり、大きな省エネ効果を生んでいます。このバイオ法はすでに海外でライセンスもしており、エネルギー削減技術として、これからも世界に貢献していけるものと考えています。また画期的な触媒で、新規のエチレン3量化技術プロセスを稼動し、これも千葉県市原地区で商業化しており、エネルギー原単位を大幅に改善しております。