エネルギー消費の効率化
山藤 泰
YSエネルギー・リサーチ 代表
3・11以降、日本の電力供給の不安定さは一向に改善されていない。現時点では原発再稼働の数や時期は見通せず、断言はできないが少なくともここ2~3年はこの不安定さが続き、突然の広域停電、あるいは、計画停電が否定できない状況にある。これに対応するために、事業所や家庭に緊急的な節電が要請され、これまで何とか危機を乗り切ってきた。しかし、可成りの無理が伴っているだけに、同様な節電効果が継続できるかどうかが懸念される。
この節電努力と並行して、電力消費機器設備の効率を大きく上げることができる方策があれば、電力の総需要を削減できて無理のない節電効果を出すと同時に、火力発電所での化石燃料消費を抑制することにつながるのだから地球温暖化対応策ともなる。日本でも更なる効率化余地はあるはずだ。
病院、ホテル、オフィスビル、製造工場などの面積当たり電力消費は大きい。この消費効率を大きく向上させる方策がごく身近にあり、しかも大きな投資をしなくても可能である。このような建物・施設には、電気モーター、ポンプ、それにつながる配管が無数にあり、その中には長時間連続稼働されているものも多い。しかも、設置後は故障でもない限り取り替えは行われず、営業・操業に影響しない限り全体システムが見直されることは少ない。
この種の設備のエネルギー消費効率を10%でも上げることができれば、稼動時間が長いものの電力消費量は大きく下がることになる。一度チェックして効率の高いものに入れ替えることは、多少の手間はかかるが大きなコストを要することではなく、その投資回収期間も長くはないはずだ。
中でも効果が大きいのは流体を送る配管系統の見直しである。配管内の流れには必ず管壁との摩擦があり、それを乗り越えるだけの力がポンプ、それを回すモーターに必要となる。ところが、摩擦は配管の直径の5乗に効くため、少し太くするだけで流量を維持するポンプに必要な力を大きく引き下げることができる。また、配管は伝統的に直角に曲げられるが、そこでも摩擦が加わって流れが阻害される。配管直径を太くし、曲線配管にして直角の曲がりの数を減らせば、圧送に必要な電力は大きく削減できる。
筆者は昨年10月、「ソフトエネルギーパス」あるいは「ネガワット」で有名なエイモリー・ロビンス(ロッキーマウンテン研究所会長)の新著を翻訳して、「新しい火の創造」という邦題でダイヤモンド社から上梓した。上記の事例が詳細に述べられているが、これはほんの一例に過ぎない。他のエネルギー効率向上の事例も多く記述されているので参考になるだろう。