ハリケーン・サンディによる米国東部大規模停電が問いかけたもの

-停電と電力システム論に関する日米比較-


Policy study group for electric power industry reform

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3.停電に対する日米の評価は対照的

 日米両国の中心部で生じた大規模停電により惹起された議論は、日本では原発事故という極めて社会的影響度の大きい事象が同時に発生したことを割り引いても対照的だ。 
 日本での議論は、電力設備やその運用上の問題よりも、産業組織論や価格メカニズムの活用不足に焦点があたっている点に特徴がある。スタンフォード大学名誉教授の青木昌彦氏の「危機に強い産業組織築け」(日本経済新聞経済教室、平成23年8月4日掲載)は、原発事故への対応のまずさに加えて震災後に行われた「計画停電」は計画経済への逆戻りだとして批判、日本の電力会社が「統合による摺り合わせ(発送配一貫)=電力供給の質」という神話に安住しているとして、摺り合わせ型システムである発送電一貫体制に疑問を投げかけた。発送配電をそれぞれモジュール(構成要素)として分離し、明示的なインターフェースのルールに従いながら、各モジュールが固有の機能を発揮するモジュール型の組織に変えた方が、複雑度と不確実度の高い環境下での高いパフォーマンスが期待できるというのである。その上で、需給調整への限定的な価格メカニズムの利用も提言している。
 学習院大学特別客員教授の八田達夫氏は、「日本の電力供給体制には短期あるいは瞬時の需給逼迫に対応して価格が上昇する仕組みがないこと」を問題視し、青木氏の立場とも重なるが、価格高騰という価格メカニズムの作用によって大口需要家が逼迫時に需要量を削減することで、停電の可能性は大幅に減少するとしている。
 またこの議論は一部の経済学者に限られたものではなく、政府も震災後の計画停電やその後の電力使用制限によって多くの国民や企業に多大な負担や苦難を強いたとして、震災の教訓を踏まえた発送電分離(電力システム改革)に乗り出していることは周知の通りだ。
 一方、米国では停電の長期化原因として、電力会社が送配電線に近接の樹木伐採を怠ったために被害が大きくなったとの疑いや、電力会社の情報発信体制が十分強化されていなかったこと等に批判が集中した(昨年もハリケーン・アイリーンによる停電が生じていたため)。これを受けて、ニューヨーク州のクオモ知事は11月13日、今回のサンディや昨年のアイリーン等の自然被害に対する電力会社の準備と対応が適切だったかを検証する委員会を立ち上げている。

4.モジュール化され価格メカニズムに依拠する電気事業体制は万能ではない

 今回、長期の停電が生じたニューヨーク州やニュージャージー州ではすでに発送電分離が行われ、電力システムも青木氏の言うところのモジュール型の開放ルールシステムとなっている。コン・エジソン社も発電資産の多くを売却し、送電系統運用の機能をニューヨークISOに分離して、送配電事業(ワイヤー・カンパニー)というビジネスモデルに特化している。さらに系統運用を行うニューヨークISOは州内の卸電力市場(プール市場)を運営し、市場価格に応じて発電力やデマンドが調整される仕組みとなっているのであるが、これらが有効に機能して計画停電が不要になったり、停電量が減って復旧期間が短くなったりした形跡は見られない。ニュージャージー州もほぼ事情は似たようなもので、電力会社は発送電分離され、ISOであるPJMが系統運用と卸市場運営を行っているのである。
 詳細はニューヨーク州などが取り纏める報告書を待たなければならないが、今回の米国での停電は、電力設備の設計・設置の形態やメンテナンスなどの管理面で自然災害に対する備えが必ずしも十分でなく、広範かつ膨大な設備に被害が同時発生して復旧の手が足りなかったことが長期化の原因だと推察される。同時に大規模自然災害などの電力設備被災で発電所停止等による急激かつ大きい需給ギャップやネットワーク事故による電力流通の寸断が生じる場合には、価格メカニズムによる需給調整や混雑管理では間に合わず停電するしかないわけだ。