最終話(3の1)「ポスト『リオ・京都体制』を目指して(その3)」


在ウィーン国際機関日本政府代表部 公使

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途上国支援
 COP15のコペンハーゲン合意で規定された短期支援(2010年~12年で先進国から300億ドルのコミットメント)が本年で終了することから、来年以降、2020年(長期資金1000億ドル(官民)の目標年)に至るまでの支援をどの程度具体化するか否かが焦点となった。
 途上国の関心が高いテーマであり、筆者が交渉に参加していた本年夏の実務者会合でも相当の時間が割かれ、本番のCOPでも同様だったようである。結局、様々な要素(長期資金に関する作業計画延長やハイレベル対話開催、緑の気候基金のホスト国承認など)が成果文書に盛り込まれたものの、新規の資金コミットメントの明記は回避された。先進国の経済・財政状況や交渉全般の進捗からして新規コミットメントが出来る地合いでもなく、これも想定内の結論である。日本としては、本年までの短期支援の実績を示しつつ、リオ+20で表明した緑の未来イニシアティブ(後述)など、来年以降の切れ目無い支援についても具体的な形で示した。途上国支援は交渉全体の中の一部分ではあるが、やるべきことをやっている姿勢を示すことは、途上国との実利的関係もさることながら、日本の主張の一貫性、信頼性という点から日本の交渉スタンスを下支えしていたと思う。
 なお、緑の気候基金のホスト国について、欧州など複数の候補国の中から韓国に決まったことは、途上国支援における新たな傾向として注目すべき点である。韓国は気候変動交渉では依然途上国の区分だが、OECD・DACのメンバー国として新興ドナーの顔もあわせもつ。グローバルな資金関連の国際機関が欧米ではなく、需要が最も多く見込まれるアジアに置かれることになったという意義もある。日本の官民も新たな流れに如何に関わっていくか、大いに研究していくべきであろう。

二国間オフセット・クレジット制度
 COP18の機会に行われた、モンゴル及びバングラデシュとの閣僚レベルの二国間会談において、これまで実務レベルで協議を行ってきた二国間オフセット・クレジット制度を来年のできる限り早い時期に開始することで一致した。また国連交渉の文脈では、クレジットの国際移動に関するダブルカウント防止方法や報告様式を更に検討していくことになった。
 これまでの「二国間制度は是か非か」といった入り口の議論から、技術的検討の段階に一歩進んだものとして評価できる。来年以降、出来るだけ多くの国々と具体的協力を進めつつ、国連でのルールメイキングにもインプットしていくことが重要である。

 COP18の結果を受けた、気候変動交渉を巡る各国の立場を表すと図表8-1のようになろう。すなわち、
 ○京都議定書第2約束期間を巡り、先進国の立場は米・カナダ(京都議定書の枠外)、日本・ロシア・ニュージーランド(京都議定書にとどまるが第2約束期間には不参加)、EU・豪州・ノルウェー等(京都議定書第2約束期間に参加)と分かれたが、京都議定書第2約束期間設定が今回決まったことにより、これ自体は座標軸としての意味を失った。
 ○来年以降は、全ての国々に適用される将来枠組みの構築という、縦の座標軸における交渉が中心となる。カギとなるのは米国及び中印をはじめとする新興途上国であり、これらの国々を上に引き上げていけるかが、将来枠組みの構築の成否を左右することになる。

図表8-1

 ここで注意すべきは、京都議定書「延長」問題に替わる新たな座標軸が出来て、将来枠組みの交渉において再度「先進国vs途上国」といった二項対立の図式を作らないようにすることである。この関連で、COP18における将来枠組みの工程表に関する成果文書において、今後の検討で考慮すべき要素の一つとして「条約の諸原則の適用」(“application of the principles of the Convention”)が挙げられている点に特に注意すべきである。ここでいう「条約の諸原則」とは、第1話でも触れた「共通に有しているが差異のある責任(“common but differentiated responsibilities”)」や「衡平性(“equity”)」といった気候変動枠組条約に明記されている原則を指すと解される。この「条約の諸原則」の扱いについて、新興国の台頭をはじめとする過去20年の国際社会の変化にあわせて、また将来を見据えた形で適用するのか、それとも、90年代初頭の国際社会のまま先進国と途上国を二分する構造を維持する形で適用するのか(後者であれば京都議定書の二の舞になるおそれがある)、今後の将来枠組みの交渉における注目点といえよう。

(つづく)

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