第6話(3の1)「ポスト『リオ・京都体制』を目指して(1)」


在ウィーン国際機関日本政府代表部 公使

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(4)第4の理由:科学、イデオロギーの役割
 最後に、特に環境・気候変動交渉に顕著な、科学とイデオロギーの果たす役割である。
 気候変動交渉の現場では、各国代表、環境NGOなどの発言において、scienceとかevidenceといった表現が頻繁に出てくる。地球温暖化による悪影響は様々な証拠(evidence)が示しており、科学(science)の要請に基づき、各国は対策をとるべきといった文脈で言及される。自らの主張は「科学的根拠」に基づいており、「正義」は我にありということになる。温暖化懐疑論は勿論、経済、社会への影響とのバランスで温暖化対策を判断すべきといった常識論さえ、科学の要請に沿わない安易な妥協として否定的にとらえられがちになる。
 科学とは別個のもう一つの「正義」として、南北問題のイデオロギーがある。現在の温暖化問題の責任は、産業革命以来CO2を大量に排出してきた先進国が専ら負うべきとの発想から、衡平性(equity)や歴史的責任(historical responsibility)といった、科学の論理とは別個の価値を含む言葉が途上国や一部NGOにより多用される。先進国、途上国の個別国毎の事情は捨象され、先進国vs途上国の二元論(dichotomy)的発想が、強いイデオロギー性をもって交渉全体を覆うようになっている。
 科学であれ、南北問題のイデオロギーであれ、「正義」が前面に出てくる国際会議では、各国の「利害」を調整する交渉は著しく困難になる。年々増える様々なステークホルダーの衆人環視の下では、なおさらそうなる。また、論点が複雑多岐にわたるため、各国とも自国の「利害」を正確に認識することすら難しくなっている。
 このような中、「アジェンダ・セッティング」、「ルール・メイキング」、「運用面の協力」、「資金動員」の各方面で交渉を前進させるためには、「正義」を巡る各国の主張の背後にある「利害」を見極めつつ、その調整を図り、かつ「利害」の調整が「正義」と相反するものではないことを、様々なステークホルダーに粘り強く説得していく必要がある。これは並大抵の作業ではない。各国の外交力が問われることになる。「環境外交」が「環境」である以上に「外交」である所以である。

(つづく)

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