温暖化交渉:COP18を越えて、日本が取るべき交渉スタンスを考える


国際環境経済研究所前所長

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最善の交渉スタンスとは

 こうした基本認識を踏まえれば、日本にとって最善の交渉スタンスは、以下のようになろう。(もちろん、京都議定書第二約束期間の交渉については、何が起ころうと日本はすでに「部外者」となっていることは世界の共通認識なので、その点は不変。)
 第一に、日本の国内での政治動向やエネルギー政策の議論の進展が一段落するまでは、急いで対外的に耳目を引くような提案や削減目標を打ち出すことは控えることだ。日本の排出量の世界に占める割合がどんどん低下していく中で、国内での排出削減を無理に進めても、温暖化問題解決には寄与しない。むしろ、途上国での排出増加を抑制・削減してくことに、日本がどう貢献できるのかを検討していくことの方が重要である。
 第二に、その関連でいわゆる「鳩山目標(1990年比2020年▲25%削減)」の取り扱いを慎重にすることだ。この目標は「日本が無条件でコミットした水準ではなく、枠組みの公平性や実効性の実現度に依存したものであること、また国内的なエネルギー政策の不断の見直しを行っていく中で、今後変化不可避であること」という位置づけを政府部内で共有化し、同目標をしだいに風化させていくことが重要である。
 第三に、次の枠組みとして、途上国(特に新興途上国)についても、先進国同様(その程度論には幅があろうが)条約上の義務が課せられるものでなければ、温暖化問題解決にはほど遠いものとなる。日本は、いかなる合意案であっても、実効性ある枠組みでなければOKしないというスタンスで臨むべきだろう。

日本がなすべき新貢献

 それでは、日本は温暖化問題解決に向けて、どのような交渉上の貢献ができるのか。京都議定書タイプの国際枠組みがリセットされる今後数年間は、交渉の対象を広げたり、交渉方式を多様化していくチャンスだとも言える。日本は、数値目標を競争するような交渉に軽々に参加すべきではないが、ルール作りを行うような交渉の場には、積極的に関与していく必要がある。以下に、いくつかのアイデアを示しておく。

(1)交渉目的を、妥結がきわめて難しい京都議定書タイプの削減目標合意のみに置くのではなく、それを最終目標としながらも、そこに到達するまでの中間目標として、緩和や適応についての「ベスト・プラクティスの共有」を位置づける。トップダウン・アプローチか、ボトムアップ・アプローチかという二項対立にならずに、しかも少しでも実効的な温暖化対策を進めるという路線である。
(2)AR5の報告内容にもよるが、研究の進展で温暖化の原因が新たに見つかるようであれば、交渉対象やベスト・プラクティスの共有対象を、これまでの6ガス以外にも拡大していくことを目指すべきだ。エネルギー起源の二酸化炭素は、各国の経済・生活全体に関わることから、合意がきわめて難しいことを考えれば、温室効果をもつ別の原因物質で交渉対象から漏れているものを拾い上げることは、非常に有効な温暖化対策になる可能性がある。
(3)ダーバンプラットフォームでの交渉が滞るようであれば、今後交渉の場や合意の枠組みを多様化、これまでの国連主義からの脱却がいずれ必要になるかもしれない。地域内取り決めや大排出国間合意などについてのアイデアも、民間調査機関やアカデミアから出していくべきだという声は、そう遠くない時期に聞こえるようになるのではないか。nation-state(政府)間の合意に加えて、グローバルに展開している企業間での合意など、合意主体を多様化させて、多層的な国際合意構造を形成していくことも検討すべきだろう。

月刊ビジネスアイ エネコ12月号より転載。

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