第4回 大阪ガス株式会社 エンジニアリング部エネルギー・電力ソリューションチーム・マネジャー 松本将英氏

スマートエネルギーネットワークで切り拓くガスの可能性


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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スマエネでエネルギー融通を最適化し、安定供給を図る。

――狙った通りのデータが出ていますか?

松本:実証事業の試験メニューとして3つ実施しています。一つ目は、「エネルギー融通の最適化」です。エネルギー利用の部分最適より全体最適を図る目的です。5ヵ所の太陽光と7ヵ所のコージェネを合わせた全体で、エネルギー消費量を一カ所ごとの部分最適の合計値より下げることができないかと考えています。コージェネにより効率のよいお客さま、融通ができるとさらに効率の良くなるお客さまも含め、全体としてエネルギーの消費量を下げられるはずです。

 二つ目は、「太陽光発電出力変動の平滑化」です。太陽光は気候により、出力が大きく変動します。従って、太陽光が大量に導入された場合には、既存の電力系統網に悪影響を及ぼす懸念があります。蓄電池を置けばある程度解決できるかもしれませんが、その場合大量の蓄電池が必要となります。試算では、3.6兆円、最大では16兆円とも言われます。全て蓄電池で解決するのがよいのかという懸念が否めません。系統の変動の調整をもともと電力会社は火力発電で行いますので、コージェネも火力発電の一種として、太陽光の出力の平滑化に使えるのではないかと思います。

 三つ目は、特に震災以降大きくクローズアップされている電源セキュリティですが、コージェネが供給力として期待できるかどうか。コージェネは、1ヵ所あたりの出力は大きな火力発電所に比べると大きくありませんし、しかもいろんな場所に散らばっていて、これらを1つの発電所とみなすには少々無理があります。しかし、例えば発電所のトラブルが起きたなどのシナリオを想定して、中央からの遠隔制御や遠隔監視の技術を使って、バラバラに散らばっているお客さまのコージェネに制御の指令を出したとします。もしこれらのコージェネが一斉に揃って立ち上がってくれたならば、その出力を合計すると、大きな一つの発電所のようにみなすことができるのではないか、つまり「群制御による供給力の確保」というわけです。

――それぞれの試験の結果が気になりますが、いかがですか?

松本:ひとつ目のエネルギーの融通には2つの段階があります。一つは、理想論のように「部分最適より全体最適」ということを申しましたが、まずはそれがあり得るのかを計算します。あるサイトは普段より少し多く運転する、逆にあるサイトからは少なく運転する、そして多いところから少ないところへ融通する、この方が全体としてエネルギー量が少なくなるという計算結果が出てまいりました。我々は、これをシーソーのような「協調制御」と呼んでいます。

 この場合、複数台のコージェネをお持ちのお客さまで、普段は自分のところのためだけならば追起動しなくて済む2台目のコージェネを、全体最適のためには立ち上げた方がよい、という計算結果が出てくるわけです。ただ机の上で計算はできたが、本当にその通りにコージェネが動いてくれないと全然意味のあるものにはなりません。この試験の次の段階は、計算通り、また指令通り実際のコージェネが追起動してくれるかどうかという実験も行っています。

 その結果、お客さま先のコージェネは計算通りに稼動してくれ、電気を受け入れる側のお客さまでは、自分のところのコージェネはそれほどたくさん運転しなくて済みますので運転を抑制するというデータが取れました。計算で確認し、実際のコージェネもその通り動くという二段階の試験を無事終わることができています。ゆくゆくエネファームのような燃料電池が2万台、3万台とお客さま先に入っていった暁には、それらを遠隔制御できる世の中になるかもしれません。

――どういう地域に適していますか?

松本:広域で繋ぐことができるならば、電気の融通は都市部に限らず、いろいろなコミュニティでスマートエネルギーネットワークの取り組みが可能です。すべてICTで繋ぎますので、賢く制御ができます。その際、そのコミュニティに参加しているお客さまは、ある程度需要がバラついていたほうがより効率的と言えます。なぜならば、融通しようと思ったら同じ使い道の人同士では融通が難しいからです。昼間はあまり電気を使わなくて、夕方皆さんお家に帰られる時間帯で電気をたくさん使うような一般家庭の多いエリアですと、融通がうまくいきません。コミュニティの参加者としては、ある程度違うお客さまが混在している方が、よりメリットを出せるという条件はあります。