第2回 日本経済団体連合会 資源・エネルギー対策委員会企画部会長 鯉沼晃氏

エネルギー政策は国家戦略の根幹。政府に責任あるエネルギー戦略をゼロから作り直してほしい


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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ゼロシナリオで失業率は現在の4.3~4.4%程度から7%以上に高まる等、政府は国民生活に関わる客観的・科学的な情報提供を

――温暖化対策やエネルギーなど環境問題は、様々な側面から国民的な議論が必要で、原子力についても再度国民的議論が必要とのお話を頂きましたが、情報発信と当事者からの説明も議論するうえで大切かと思います。国や企業の情報発信とコミュニケーションの在り方などについてご意見をお聞かせください。

鯉沼:まず、今回の政府のいうところの国民的な議論においては、国民への情報提供がされなかったとは申しませんが、非常に情報が利用しにくかったことも含めて誠実だったとはいえなかったと思います。とくに、雇用を含む生活への影響については、丁寧な説明をすることが国民の生活を守るという視点からの命題だと思います。雇用にどのような影響が出るのかについて、説明が非常に不足している。

 もう一つは電気料金ですが、2030年に向けて2倍となるモデルの検討結果もありますし、きちんと説明されなくてはいけない。また、可処分所得は、原発ゼロ政策で年間60万円程度減少しますが、とくに問題なのが、若年層の落ち込みが大きく、働き手である若年層への悪影響が非常に大きいということです。失業率は現在の4.3~4.4%程度から7%以上に高まり、失業者数は約200万人増加することは、極めて危惧されるところです。「国民を脅してはいけない」との理由から必ずしも詳しい説明をしていないということですが、そういうことはいかがなものかと思っています。

 また、原子力の安全性についての情報提供もない。事故の原因を究明した結果、安全性をどう評価し、再発防止策をどうしていくのかについて情報提供がないまま、原子力発電の位置付けや比率について国民的な議論を進めるやり方は、適切とは言い難いと思います。

 エネルギー政策というのは、国民生活にとっての基本のインフラを決定するものであり、国家戦略の根幹をなすものであります。適切な国民的な議論を行うためには、国民生活に関わる客観的、科学的な情報をきちんと提示しなければならないと思います。

【インタビュー後記】
 原発ゼロ政策にアメリカが強い懸念を示し、閣議決定は見送られ、2030年に向けた日本のエネルギー政策はふたたび不透明な状況になりました。しかし、鯉沼さんのお話を伺い、ここは急がず、今一度シナリオを見直す時間をもつことが大事なのだと感じました。政府には福島第一原子力発電所での事故原因と今後の原子力発電の安全対策について国内外に明確に説明した上で、ゼロシナリオにおける具体的な国民生活への影響など透明性の高い情報を国民に提供してほしいと思います。世界のエネルギー情勢や環境対策も十分考慮し、日本における電源のベストミックスを改めて模索すべきだと思いました。

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