国民の省エネ意欲を削ぐだけの環境税
「エコ神話」の産物としての環境税の論理矛盾を突く
久保田 宏
東京工業大学名誉教授
より具体的に、この環境税の不条理をみてみよう。いま、当面の環境税額は、輸入化石燃料に対し、石炭 220円/t、石油 250円/kℓ、LNG 260円/t とされている(朝日新聞9/28)。この税額に、これら化石燃料についての2010年度の輸入量、石炭(一般炭と原料炭の合計)105,945千t、石油 214,357千kℓ、LNG 70.562千t(文献1 参照)を乗じて、環境税の税収の合計を求めてみると、1,130億円と計算される。これに対し、政府は、環境税の施行により2016年度には2,632億円の税収が見込まれるとしているから、2倍以上の金額である。化石燃料の消費量を減らすのが目的の環境税だから、2016年度の輸入量は 2010年度のそれより増えてはいけない。政府は環境税の税額を段階的に増やすとしているから、2016年度には、2倍以上にするのであろう。問題は、この税額の決め方である。環境税は、化石燃料消費の削減が目的であるが、消費者にとっての生活と産業の維持に必要なエネルギー消費量は簡単には減らすことができない。したがって、税額をよほど高くしない限り、エネルギー消費量は余り変わらないであろう。結局は、いま問題になっている消費税と同じで、目的とする税収金額を先に決めて、この金額から逆算して、消費税の税率に相当する環境税額が決められることになる。すなわち、省エネを促すとした環境税の目的が達成されなくとも、確実に、国民からお金を取り上げることができる。これが環境税である。では、このようにして広く国民から巻き上げたお金が何に使われるのであろうか?政府は、環境税の税収は、中小企業や民間団体の省エネ機器の購入時の補助金や地方自治体が自然エネルギーをつくるための基金として使うとしている。しかし、このような目的のお金であれば、その使用による効用が、きちんと金額として示されなければならないが、それがなされていない。いや、現状では、それができない。
そもそも、政府は、省エネの効用について判っていない。いま、日本経済にとっての省エネの効用は、エネルギー源となる化石燃料の輸入金額の削減なはずである。例えば、省エネ機器の購入のエコポイント制度であれば、その省エネ機器の使用による化石燃料の輸入節減金額がエコポイントとされなければならないが、実際のエコポイントでは、そうなっていない(文献2参照)。また、自然エネルギーの利用でも同じである。すなわち、現在、自然エネルギー電力の利用・普及のために補助金が支払わなければならないとしたら、その金額は、その生産設備で生み出される電力の使用による輸入化石燃料の節減金額でなければならない(文献3参照)。この環境税によって、国民から強奪されるお金は、一銭たりとも、わけのわからない目的のために使われるべきでない。いま、メデイアは、この環境税の施行に際して、政府が発表している環境税による消費者の負担金額、世帯あたり年間1,228円(2016年の値?朝日新聞/28)の多寡を問題にしているが、これは、とんでもない見当違いである。