容量市場は果たして機能するか?~米国PJMの経験から考える その2
電力改革研究会
Policy study group for electric power industry reform
他地域の動向:電化の進展と再生可能エネルギーの増加が予備力不足の引き金に
米国内の主な電力市場のうち、PJMと同様のタイトパワープールから出発したニューヨークISOやISOニューイングランドなどが当初から容量市場を運営している。一方、米国でもテキサスERCOTは容量市場を具備していなかった(ちなみに容量市場のない電力市場を”Energy Only Market”と呼ぶ)。そのテキサスの供給予備率がつるべ落としに低下していることは、すでに「テキサス州はなぜ電力不足になったのか」(8月15日掲載)で紹介した通りである。
欧州諸国(英独仏など)では、小売自由化開始時点で、供給予備力が比較的高い水準にあったこともあり、容量市場は採用されていなかった。唯一、英国が全面自由化に踏み切った1990年に導入された全面プール市場には、市場価格にキャパシティ・エレメントと呼ばれる発電事業者へのプレミアム的な支払い額を上乗せする仕組みがあった。停電確率を考慮して需給がタイトになるほどこの上乗せ額を大きくすることで、電源設備投資へのインセンティブとすることが期待されていたが、上乗せ額が需給逼迫度合いによって大きく変動することから、発電事業への参入による期待収益の想定を困難化させ、電源設備投資が進むには至らなかった。このため、この制度は相対取引中心の現行制度への移行に伴いプール市場とともに廃止された。
ところが現在では英国、ドイツ、フランスのいずれでも、「容量市場」の採用が検討もしくは提案されている。このような状況に至った理由としては、主に以下の2点を指摘できる。
(1)供給予備力の低下
図8はフランスにおける最近10年間の最大電力の推移を示したものであるが、年率3%弱の堅調な伸びで推移しており、10年間で見ると25GWの需要増加が見られる。フランスの送電系統運用者RTEの分析によれば、この増加の背景としては、人口増加に加えて電化の進捗とくに電気暖房や電気温水器の普及が大きく効いているとされている。他の欧州地域でも同様の事情での需要の伸びによって、予備力に徐々に余力がなくなりつつあり、新たな発電設備の建設へのインセンティブが必要となってきているのである。