容量市場は果たして機能するか?~米国PJMの経験から考える その2


Policy study group for electric power industry reform

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(2)再生可能エネルギーの増加
 再生可能エネルギーの導入が拡大してくると、その出力変動を主に調整するのは火力発電の役割である。図9は実際に大量導入が進んだスペインの需給運用の一例であるが、夜間の需要が少ない時間帯に風力の発電量が増えて火力1基のみが運転されているのに対して、ピーク時間帯には風が弱くなり27基の稼働が必要となっている。これらの火力による出力調整機能がなければ、再生可能エネルギー導入後の需給バランスが維持出来ないが、一方で調整運転を行う火力発電の設備稼働率は、再生可能エネルギーを受け入れた分だけ低くならざるを得ない。  
 また固定価格買取制度(FIT)を導入しているドイツでは、送電系統運用者が買い取った再生可能エネルギーの全量を電力取引所であるEEX の卸電力市場で売却することが定められており、(FIT固定買取価格-EEX卸電力市場価格)×(FITでの電力購入量)の合計額がサーチャージとして託送費に上乗せされることになっている注1 。仮に電力市場価格が安くなって市場での売電収入が減っても、その分だけサーチャージによる託送費収入が増えるので、電力市場価格は送電系統運用者の収支に全く影響しない(図10参照)。結果として、送電系統運用者は引き取った再生可能エネルギーを確実に市場で売り切ろうとするために安値で市場に放出することになり、最近の卸電力市場価格が低下する原因となっている。需要が低い休日に風力発電の発電量が多くなる場合などには卸市場価格がネガティブになることさえある。このような時期には、送電系統運用者はFITで買い取った再生可能エネルギーの発電分を負の価格で売り入札していると考えられる。ドイツの制度の本来の趣旨は卸電力市場を活用して再生可能エネルギーの変動を吸収しようとするものだが、現状では卸電力市場での価格形成を歪める結果になっていると言えそうだ。
 火力発電所を保有する事業者から見れば、稼働率低下で市場での売電機会が減ると同時に、卸電力取引価格の低下によって売電価格が低下することになるため、経年火力を維持する、あるいは新たな設備投資を行う意欲が失われるだろう。このため、ドイツ連邦政府などが出資して設立した省エネルギー・再生可能エネルギーの研究機関であるドイツ・エネルギー機構denaは、「脱原子力を進める上で2030年までに49GWの火力発電設備の建設が必要となるが、再生可能エネルギー優先のドイツ市場の枠組みで必要な費用が回収されるためには容量市場が必要となるだろう」と指摘している。

注1)換言すれば、サーチャージ算定時にEEX卸電力取引価格を回避可能原価(日本では火力発電所の燃料費を利用)とする仕組みである。

(図9)再生可能エネルギー大量導入時の火力発電所の運用
(出所)経済産業省総合資源エネルギー調査会基本問題委員会第23回資料
「再生可能エネルギーを巡る事実関係」(2012年5月)

(図10) ドイツでの再生可能エネルギーに関する電力取引の流れ