在米のエンジニアに聞く米国スマートグリッド事情


Policy study group for electric power industry reform

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デマンドレスポンス事情

 最近の調査によると、時間帯別料金(TOU)や、クリティカルピーク料金をはじめとするダイナミック料金などの料金メニューを利用している一般家庭は、全米の約1%、約110万軒にすぎず、そのうちおよそ99%がTOUであるという。一方、日本でTOUを利用している一般家庭は、およそ8%、約600万軒であり、料金メニューの普及という点において、比率、軒数共に、実は日本の方が進んでいるといえる。
 ただし米国では、直接需要家の機器を制御するデマンドレスポンス(Direct Load Control: DLC)が実用化され、効果を発揮している。メリーランド州ボルチモア市を中心に電力を供給するBGE社では、昨年7月の記録的猛暑日にデマンドレスポンスを発動し、約60万kWの需要を抑制して停電を回避した。同プログラムは、単方向の無線システムにより、加入者の主にセントラルエアコンを直接制御するもので、加入者は自らが選択したメニュー(1時間あたりの停止時間)に応じた対価を得ることができる。単方向無線を利用しているため、正常に動作したか否かの確認はできないが、直接制御によるシンプルかつ費用対効果の高いシステムである。ただし、こちらのセントラルエアコンシステムは、室温がサーモスタットの設定温度に達すると、中央の熱源器の接点をオン・オフするだけのシンプルな仕組みで温度を制御しているため、このような直接制御が非常に容易であることは、日本と事情が異なる。

(図4)BGE社のデマンドレスポンスメニュー

 なお、日米共に今後は、スマートメーターの普及にあわせ、デマンドレスポンスの活用がさらに進んでいくものと思われるが、両国のライフスタイルや主流となる使用機器などの相違により、効果的なデマンドレスポンスの手法も異なる可能性があることは認識しておくべきである。そもそも前述した通り日米では一般的な家庭の電力使用量が大きく異なる。また、米国ではセントラル方式のエアコンが主流であり、日本のようなインバーター制御エアコンはごく僅か、留守中も入れっぱなしで設定温度も低いなど、生活スタイルの違いもある。日本では家電機器の省エネや節電が進んでおり、デマンドレスポンスによる需要抑制・需要シフトの余地も小さいことから、太陽光発電などの分散電源や、EV、家庭用蓄電池やヒートポンプ式給湯機などの蓄エネルギー機器の普及を図りつつ、デマンドレスポンスを活用していくことが有効だと考える。

米国の電力会社はマイペース

 最近ではそうでもないようだが、日本でスマートグリッドが盛り上がり始めた当初、日本の電力会社は、日本の電力システムはすでにスマートだといって、非常に後ろ向きであったと聞く。米国のスマートグリッド技術が日本より進んでいるという認識は誤りで、誤解を恐れずにいえば、米国のスマートグリッドとは、多くの場合、スマートメーター(基本的には遠隔検針機能だけ)と日本では既に普及済みの配電自動化を目指しているのが実態だ。しかし一部には先進的な取り組みを行っているプロジェクト・電力会社もあり、個別の事例からは日本もよく学ぶ必要がある。
 米国では国立標準技術研究所(NIST)が規格化を主導しているが、スピードが速いだけでなく、細部を追うには内容が複雑なため、こちらの電力会社の多くはついていけていないように見える。ただし、NISTのいうことを聞いていれば補助金がもらえる可能性があり、電力事業を規制・監督する連邦エネルギー規制委員会(FERC)の規則になると面倒なので、最低限付き合っているのが現状だ。NISTもその点はよく理解しており、補助金をエサに電力会社を自分たちの方を向かせようとしている。
 また、メーカーや情報通信会社などが商機と捉え、新技術の導入、データ開示などの様々な意見・提案を電力会社にしているが、「それはあなたが儲けたいだけでしょう」と冷静で、参考意見程度にしか見ていないようだ。ただし自分の利害に関係しそうな場合には、新しい技術・ビジネスモデルを取り入れることに比較的柔軟で、少なくとも「これまで問題がなかったからこのままで良い」という消極的な考え方ではない。日本の電力会社も見習うべきだろう。
 一方で、電力会社の技術をサポートする、独立・中立の研究組織である米国電力研究所(EPRI)の技術者は、「メーカーからの技術提案を鵜呑みにしないために、電力会社はしっかりと技術を理解しないといけない」といっている。中小の電力会社が非常に多い米国ならではの問題を感じさせる話である。
 なおEPRIの技術者は、電力会社に独自仕様ではなく、世界の標準・規格に合わせた設備を持つことを推奨している。それは結果的に、長い目で見て調達・運用コストが安くすむと考えられるためだ。これは何かにつけて独自仕様をつくりたがる日本の電力会社にも通じる話である。

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