在米のエンジニアに聞く米国スマートグリッド事情


Policy study group for electric power industry reform

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 LCUB社の一般家庭向け料金メニューは、従量制(基本料金+使用電力量×従量料金)の1つだけであるが、一般家庭の平均的な電力使用量が1,200kWh/月と日本の4倍程度多いにも係わらず、約$120(約\9,600)と極めて安い(東京電力の場合、一般家庭の平均的な電力使用量は290kWh/月、電気料金は約\7,000となる)。当然ながらテネシー州では電気料金に対する不満は少なく、料金メニューの多様化や、電力自由化を進める要望や必要性が小さかった(なおテネシー州には連邦営のTVAという水力発電主体の卸電力会社があり、LCUBなどの小さな会社はそこから安価な電力を調達できる)。電力自由化が進むと、安価な電源を有する電気代の安い地域から、電気代の高い地域に電気が送られてしまい、もともと電気代の安価な地域では逆に電気代が上昇する懸念があることも、小売自由化が進まない一因と考えられる。

○ LCUB社の電気料金(2012年6月)
基本料金
$15.26
従量料金
$0.08899/kWh

 ただLCUB社と契約している一般家庭が選べるオプションメニューが1つある。「グリーンパワースイッチ」といって、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの導入にかかるコストを負担するもので、150kWh/ブロックが$4で、合計8ブロックまで、一般家庭の平均的な電力使用量の1,200kWhまで購入することができる。余分にコストを負担しても、再生可能エネルギーの電気を使いたいという需要家の声に応えるものだ。これは、日本のグリーン電力証書と同等の仕組みだろう。
 日本でも2012年7月から再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度が始まったが、再生可能エネルギーの電気として既存電源の電気よりも高値で買い取ったコストは、全国の需要家が一律に電気料金の一部として負担することになっていると聞く。しかし再生可能エネルギーの電気をもっと使いたいという需要家の声に応え、同時に、その需要家に応分のコストを負担してもらうためにも、日本でも同様のメニューを用意することは有用ではないだろうか。その方が全国の需要家に一律の負担を求めるよりもフェアなのではないか。

スマートメーターの普及状況

 最近、日本の知人からメーターはどのようなものが設置されているかという質問を受けたが、わが家の電力メーターは電子式ではあるが、電力量しか表示しておらず、いわゆるスマートメーターではない(30分間隔など定期的な検針機能、双方向通信機能、遠隔開閉機能などを有する次世代のメーターをスマートメーターという)。メーカーのホームページによれば、機能を拡張してスマートメーターとすることも可能のようだが、そもそも自由化されていない、料金メニューも従量制の1つしかない小さな電力会社にとっては、高いだけの余計な機能ということだろう(スマートメーターの設置コストは小売料金に転嫁されることになるため、導入にあたっては、電力の小売り料金の規制権限を有する州規制当局による費用対便益の審査と認可が必要となる)。

(図3)LCUB社の電力メーター

 なお、米国における私営電力会社の団体であるエジソン電気協会(EEI)によると、米国全体では2012年5月現在で一般家庭のおよそ1/3にあたる約3,600万軒にスマートメーターが導入されており、2015年までに半数以上の約6,500万軒まで拡大される見通しであるという。しかし私には、LCUB社のような一地域の小さな電力会社が、莫大なコストをかけてスマートメーターを全需要家に導入するとは思えない。米国のスマートグリッドブームは、一部の地域や分野を除いて、政府の補助金がなくなれば終わるのではないか、実際、補助金による実証実験に過ぎないのではないか、と半信半疑に思っている人が少なくない。