「エネルギー・環境に関する選択肢」は何を国民に問いかけているのだろうか?
塩沢 文朗
国際環境経済研究所主席研究員、元内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「エネルギーキャリア」サブ・プログラムディレクター
選択肢という手法に起因する問題もあります。意見表明の仕方によっては、自分の行った「選択」が予期せぬ将来を選択したことになりかねません。例えば、原発の依存度に着目して「15シナリオ」を選択すると、あたかもCO2排出削減目標(2020年▲9%、2030年▲23%(ともに90年比))も併せて選択したようになってしまいます。原発依存度は徐々に減らしていこう、そしてCO2の排出削減も経済に悪影響を及ぼさない範囲で進めよう、といった考えは排除されてしまうのです。
特にCO2の排出削減目標は、今後の日本の国内事情によって変更しうる原発依存度や再生可能エネルギー比率などの目標と異なり、国際公約として、今後、日本をずっと縛っていくものになることから、十分な注意が必要です。
そういった選択肢自体の問題がある上に、国民に対してどのような意見を求めているのかも、実は、明確ではありません。選択肢からの選択を求めている訳でもないようなのです。本文にはこう書いてあります:「これらの3つのシナリオの比較検証を通じて、どのエネルギーをどう組み合わせながら原子力の穴を埋め、どの程度の時間をかけてその依存度を下げていくのか、地球温暖化対策の要請に対して、再生可能エネルギー、省エネルギー、化石燃料のクリーン化といった対策を、どのくらいの時間とコストをかけて進めていくのか、問いかけたい」と。国民に求めている意見に係るこの曖昧さは、意見の取り扱いの際に混乱を生じさせる可能性があります。例えば、選択肢からの回答と選択肢に依らない回答とを、どのような重み付けをして扱うのでしょうか。
選択肢を用意することにより、意見を聴く内容をできるだけ単純化したいという事務局の苦労は分からないでもありませんが、今回の意見募集の方法にはこうした問題とリスクがあります。
「エネルギー・環境に関する選択肢」で提起されている問いの設定や内容についての問題点を十分に承知した上で、国民は意見を述べ、意見を受け取った国のほうも、提出された意見についての適切な取扱いと解釈、理解をすることが必要と思います。