エネルギー・ミックスの選択にどう向き合うか


一般財団法人日本エネルギー経済研究所 理事長

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 経済産業省の総合エネルギー調査会・基本問題委員会における約半年、25回を超える審議を経て整理された、2030年におけるエネルギー・ミックスの選択肢と関連審議会の報告も踏まえて、7月上旬に、エネルギー・環境委員会が、国民的議論を行うための3つの選択肢を提示した。原子力と再生エネルギーの比率で表現すれば、選択肢①は、原子力ゼロ%、再生エネルギー35%、選択肢②は、原子力15%、再生エネルギー35%、選択肢③は、原子力20-25%、再生エネルギー25-30%となっている。其々、残りは、石炭、石油、天然ガスという化石燃料を使う火力発電と、熱併用発電(コジェネレーション)だ。今後の国民的議論も考慮しつつ、8月末には、政府が、新しいエネルギー・ミックスを決定する予定だ。我々は、この選択肢に、どう向き合い、どのような判断を下すべきなのか。
 私は、上記委員会の一委員として、総合的、国際的、長期的という三つの視点から、定量的なデータに基づく客観的・冷静な判断が必要だと主張してきた。

 総合的視点は、3E(エネルギー安全保障、エネルギー効率・コスト及びエンバイロンメントと表現される地球温暖化対策)とS(セイフティと表現される安全性)という複数のリスク変数に照らした評価が重要という意味だ。出発点は、エネルギーは、国民生活、経済発展の基本的要素であるにもかかわらず、日本国内に必要量の4%しか存在しないという重い事実だ。3EとSという変数に照らすと、残念ながら、日本には、「完璧なエネルギー」は存在しない。化石燃料は、ほぼ全量輸入であり、エネルギー安全保障上の不安がある上、多かれ少なかれ、温暖化ガスを発生する。再生エネルギーは、クリーンだが、コストが高い。現時点では、太陽光発電のコストは、石炭・ガス火力の5-6倍だ。原子力は、3Eでは評価が高いが、安全性への不安がぬぐいえない。緊急安全対策、ストレステストに加え、独立性の高い安全規制委員会の設立などの対応により、安全性への国民の信頼を取り戻す事が喫緊の課題だ。更に、電力料金、GDPへの悪影響の度合いも重要だ。政府の発表によれば、コスト等検証委員会が整理したコストを使用した分析では、原子力の割合が減り、再生エネルギーの割合が高まれば、電気料金が上昇し、選択肢①では、電力料金は、現在の約2倍になるという。国民生活のみならず、製造業の競争力は、大きくそがれ空洞化は必至だ。GDPへの悪影響も、原子力が減るにつれて、大きくなる。

 国際的視点からは、米、仏、英、韓、中国等が、エネルギーの安全保障、温暖化対策など3Eの視点から一定のレベルの原子力を必要としていることが参考になる。特に、イラン制裁が本格化する中、中東情勢は一触即発の緊迫した情勢にあるが、日本の最大の備えが、石油備蓄と原子力発電であったのだ。一方、独が、2022年までに、原子力発電を段階的に廃止する決定をしたが、独の電力会社RWEの試算では、2050年には、30%近い電力輸入を想定している。現在の原子力分を輸入に頼ることになろうが、輸入先の仏や、チェコでは、原子力発電のシェアは高い。ちなみに、EU平均で見れば、現時点では、原子力の割合は30%近くあり、今後も、変わらないとされている。日本には、そうした国境を越えた電力網は、当分期待しにくい状況だ。

 最後に、長期的視点だが、2030年は、最早18年先である。発電所の建設には、10年タームの時間がかかる上、新しいエネルギーの開発を期待するには、短すぎる。
 エネルギー・ミックスの選択には、事実と分析を共有し、日本経済の健全な発展を念頭に置いて、結論を出す必要がある。エネルギー小国日本に、「完璧なエネルギー」は存在せず、多様なエネルギーをバランスよく利用するしか道はないのではなか。私が、選択肢③を提唱する所以である。

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