広域系統運用者はアンバンドリングへの解となり得るか


Policy study group for electric power industry reform

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 電気事業制度のあり方を議論する電力システム改革専門委員会の第5回会合(5月18日開催)では、事務局の経済産業省から電力小売の「全面自由化」と並んで「広域系統運用者」の設立が提案され、その後、引き続き第6回(5月31日)でも審議が続いている。現時点では新組織の定義や機能がはっきりしておらず、専門委員会でもこれをいわゆるISO(独立系統運用者)と呼んで良いかどうか含めて議論となったようだ。
 今回は「広域系統運用者」が、果たして議論が続いている「アンバンドリング」に対する解となりうるのか、またそのためにどういう機能が必要となるのか考察してみたい。なお、電気事業の「アンバンドリング」の形態などについては、本連載の第3回の記事も参考にしていただきたい。

「広域系統運用機関」とは何か?

 5月18日の事務局提案のもとになっているのは、第4回の専門委員会(4月25日)で電力会社の委員から提案されていた「中立的かつ独立した広域調整組織」と思われる。その設立目的は以下の3点だという。

全国の需給状況等を監視するとともに、需給逼迫時には広域的な予備力の調整を機動的に行う。
広域的な供給力の活用が拡大するように、連系線の利用が簡易にできるような新たなシステムを導入する 。また、再生可能エネルギーの出力変動をエリア間で吸収することで、導入を促進する。
広域的にリアルタイム(需給直前)で取引できる市場を創設し、需要抑制を含めた多様な供給力確保を可能とする。これによって同時同量に必要な調整力の確保を容易にするとともに、インバランス料金の透明性を向上させる。

電力会社の提案にはISOという言葉こそ避けられているものの、独立組織が全国レベルでの需給運用を行うという主旨からすれば、ISOあるいは後述する米国のRTO(地域送電機関:Regional Transmission Organization)に類する機関といえそうだ。現在は各電力会社毎に中央給電指令所(中給)があって、各社のエリア毎に需要と供給のバランスを調整しているが、その上位の階層に全国レベルでの需給を調整するいわば「スーパー中給」をのせることになる。

経産省の踏み込んだ提案の内容

 これに対して、経産省の試案は、まず全国機関としての「広域系統運用者」を設立することを前提にさらに踏み込んだ2つの提案をしている。

パターン1:
各電力会社毎の系統運用者を、広域系統運用者の地方機関として中立化する
パターン2:
各電力会社を分社化して、それぞれの送電子会社は広域系統運用者の指示に従う

いずれのパターンでも電力会社の案と比較すると、さらに電力会社毎のエリアの系統運用の中立化をねらったものだ。「電力会社案だけでは中立性が確保できない」とする専門委員会委員の評判も良いようだ。ただし、いずれのケースでも電力会社が有する系統運用部門あるいは送電部門全体を本体から切り離すことになるため、この分離によって市場参加者から見て何がどう中立になるのか、あるいは業務の運行に問題が生じないのか細部を詰めた議論が必要だろう。電力会社側も「中立・公平性は広域機関の創設で対応可能」(第6回専門委員会)としている一方で、その提案資料を見ても具体策がはっきりしない。広域機関の創設でどのような中立化がはかられるのかを系統利用者の立場に立って具体的に明らかにすべきだろう。また、第3回の専門委員会では事務局より「送配電部門の中立性に疑義があるとの指摘(事業者の声)」が紹介されたが、この事例に関する事実解明と、これらの解決のために電力会社が提案した広域系統運用機関からさらに踏み込むことが必須なのかどうかを、行政は説明するべきだ。

米国の地域送電機関(RTO)と比べてみると

 もともとISOという概念は、米国における電力分野の規制改革の中で提案され、いくつかの地域ですでに導入されてきたものだ。その歴史は連邦エネルギー規制委員会(FERC)がOrder 888と呼ばれる規則を出して、送電ネットワークへの非差別的なオープンアクセスを求めた時点に遡る。その後FERCはISOの概念をRTOに拡張し、各地域の電力会社に対してRTO設立を勧告した。すでに北米で10のRTOが形成されているが、RTOが存在していない地域も未だに多い(下図)。

FERCが定めたRTOの役割は以下の7つだ。

1. 送電ネットワーク利用料の管理や設定
2. 送電ネットワークの混雑管理
3. アンシラリーサービスの提供(短期での需要と供給のバランシング)
4. 系統情報開示システム(OASIS)の運用
5. 市場監視
6. 送電ネットワークの拡張計画
7. 地域を跨ぐコーディネーション

RTOが機能1,2,4,6を有するということは、送電ネットワーク利用者に対するサービスを、送電設備の所有者(地元の電力会社)に代わってワンストップで提供することを意味している。これらを市場関係者から独立した機関が一元的に果たすことで、送電NW利用の中立性・公平性・透明性が担保されると言えるだろう。
 さらにFERCはRTOの設立要件として①市場関係者からの独立性、②地域的な広がりを有すること、③短期的な電力供給の信頼性確保をあげている。要件①は当然だが、米国では電力会社の規模が小さいことが多いため要件②も課すことで、より広域的なネットワークの活用を期待しているものだが、「広域化」という視点は、今回の日本の広域系統運用者にも類似している。要件③は機能3に対応しており、自由化された電力市場で、市場参加者が自ら需要と供給の一致をはかってもなお残る需給の微少なずれを調整するのもRTOであることを示している。

 こうして見ると、提案されている広域系統運用者と米国のRTOの類似性は明らかだ。ただし、これをわが国で実現していこうとするにあたって、3つの課題を指摘しておきたい。

 まず第一に、全国大の電力ネットワーク利用を広域系統運用者が窓口として担うのであれば、送電ネットワークの利用料金を定める機能が必要ではないかと思われるが(RTOの機能1)、電力会社・経産省の提案のいずれでも十分に触れられていない。現在は各電力会社が託送料を設定しているが、広域系統運用者がこれらに関わることで、「高い」「不透明」という声が根強い託送料の透明化にも一定の役割を果たすことが期待出来るのではないだろうか。

 第二に、広域系統運用者が「短期での需要と供給のバランシング」を技術的・実務的にどう実現していくかが課題となる。その際、電力会社が現在行っているすべての系統運用関連業務を切り離して、広域系統運用者に一本化するというのは現実的には困難だ。米国でも広域での需給バランスはISO/RTOが扱い、電力会社毎のネットワークの操作や電圧の調整などは電力会社の給電所が実施するという役割分担がなされている。安定供給を支えるこれらの業務の内容を毀損しないように、広域系統運用者と電力会社の系統運用業務の適切な役割分担を決める必要がある。

 第三の課題は、広域系統運用者の専門性を支える人材をどのように確保・育成するのかということだ。米国のケースでは、全米にRTOがいくつも作られるので、当該RTOの地域での市場参加者とは関係ない人材を選ぶことも可能だが日本ではそうは行かない。といっても電力会社や新電力会社からの出向者ばかりでは、市場参加者との独立を謳うのも難しいだろう。当面は電力会社などからの移籍組を中心にしながら、徐々にプロパー職員を育てていくのが現実的かも知れない。一方、設備を建設・保守しない広域系統運用者が官僚的な組織にならないようにするため、その職員が各電力会社のネットワーク部門の現場業務にもたずさわる機会を与えたり、相互の異動が可能となるなど人材の流動化も必要だろう。

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