小口小売(家庭部門)自由化に伴う副作用

―その対策はあるのか?


Policy study group for electric power industry reform

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 今回の電力システム改革の議論では、枝野大臣の論点整理やその後の議論の展開を見ても一般家庭までの自由化すなわち全面自由化が既定路線となっているように見える。とにかく供給者や電源が選べることが重要、ということのようだ。原発事故を契機に電力会社への批判が高まり、料金のメリットがなくても既存の電力会社以外から電気を買いたいとか他地域の電力会社から電気を買いたいとか、あるいは、料金が高くもいいから自然エネルギーの電気を買いたい、といった選択権に対するニーズの高まりに応える必要があると政府は考えているようだ。

 しかしながら、電気は日常生活に欠かせない必需品であるがゆえに、料金規制を廃止して他の事業者参入を自由化することのメリットとデメリットを、良く勘案する必要がある。

 電気は生活必需品であることをふまえ、規制料金の中には、社会福祉政策的な要素を持った規制がいくつか埋め込まれている。例えば、離島への電力供給は本来内地での電力供給に比べて大幅にコスト高であるが、現在はユニバーサルサービスとして、内地と同じ料金に規制されている。
 また、ナショナルミニマム(政府が国民に対して保障する最低限度の生活水準)の観点から、家庭用の電気料金では、毎月の電力使用量の120kWhまでは割安な単価に規制されている。通常の商品であれば、たくさん消費すればボリュームディスカウントで割安になるが、それとは逆の考え方だ。

 農事用のかんがい排水に用いる農事用電力なども政治的・政策的配慮で相当割安に設定されている。自由化されれば、こうした規制の負担を既存電力会社が負い続ける道理はなくなるが、社会福祉政策的観点からは何らかの補完的政策措置が必要となる。ところが、そうした点は今の議論では十分に検討されているとは言えない。

 全面自由化をおこなった海外の事例を見ても、どの小売事業者とも契約できなかった顧客を保護するための「最終保障義務」を既存会社に残したり、小売料金に対する何らかの規制が残るケースも多い。前回、電気事業の特徴として「インフラ中のインフラ」であると述べたが、それだけに他の財やサービスのような完全自由化を短絡的に進めることには慎重でなければならない。自由化に伴う弊害を生じさせないため、あるいはどうしても生じてしまう弊害にはその緩和措置を用意するなど、相当きめ細かな制度設計が必要になる。