日本の技術を生かすことが温暖化問題解決のカギになる
関田貴司・日本鉄鋼連盟 環境・エネルギー政策委員会委員長[後編]
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
「三丁目の夕日」の時代に戻れるのか? 間違った電車に乗ってはいけない。
――地球温暖化問題を巡る現在の中期目標は業界にとって大きな負担になっていますか。
関田:鉄鋼業界は、ずいぶん前から反対してきました。というのも、現在掲げている中期目標は現実離れしていると感じているからです。自民党政権では2005年比で15%削減を目標としていました。麻生政権時に審議会で議論させていただきましたが、そのときでさえ、最後に削減目標が上乗せされ、相当大変だと思いました。
2011年の「第17回気候変動枠組み条約締約国会議(COP17)」で、政府は現実を見据えた対応をしましたが、鳩山由紀夫元首相が宣言した25%排出削減については、どうやって達成するのかというシナリオはきちんと描かれたことがありません。こうした主張をする人は、「三丁目の夕日」の時代の生活に戻ることを望んでいるのかと考えてしまいます。
――映画の「三丁目の夕日」は昭和30年代前半を描いた作品でしたね。
関田:そのころのエネルギー消費レベルまで戻るのであれば実現できるでしょう。あの映画は、家庭に電気冷蔵庫がなく、テレビもやっと来た時代を描いています。省エネ技術も進んでいますから、すべてが当時のままではないでしょう。しかし、あの時代を懐かしむのはともかく、そこに理想を求める国は世界のなかにありませんよ。
――つまり、温室効果ガスの25%削減は、現実味がない目標だということでしょうか。
関田:数字の内訳が明らかにされていませんよね。どういう生活になるのか、どういう社会になるのか。私はちょうど、「三丁目の夕日」の時代に小学生でした。当時のことは、よく覚えています。我が家にもテレビはありませんでした。クルマもほとんど走っていない時代でした。電話もほとんど使われておらず、お隣に借りに行った時代でした。
――そこまでライフスタイルが逆行してしまうことは、さすがにだれも希望していないでしょうね。
関田:おそらく、そうしたことまで考えが及んでいないのでしょう。厳しい目標さえ課しておけば、それをクリアするテクノロジーが開発されるという無責任な主張もありますが、それはいつできるのかということが問題になります。目標年が2020年だとすればあと8年しかないわけです。非常に具体性や現実性に欠ける話だと思います。
エネルギー政策と地球温暖化対策は表裏一体のテーマです。東日本大震災を経て、国家のエネルギー政策の抜本的見直しを余儀なくされている今、温暖化対策の目標については、現実的な見直しが早急になされるべきでしょう。
――革新技術が温暖化問題への対応に大きく寄与するとは思いますが、将来、どれだけ技術開発が進むのかは確かにわかりませんね。
関田:地球温暖化問題では、もう一つ大きな課題があります。地球規模で論じなくてはならないということです。日本が排出するCO2は世界に占める割合として4%弱にすぎません。
2010年のCOP16では、当時の松本龍環境大臣が国際社会に向けて、「日本や一部の国だけが削減義務を負った京都議定書ではなく、すべての主要国が参加する枠組みでなければまったく意味がない」と主張されました。よく「日本がリーダーシップを示すべき」と言う人がいますが、日本が25%という高い削減目標を掲げれば、諸外国が後からついて来るという話ではありません。そんなことで国益のかかった問題を判断する国はないでしょう。
中国をはじめとする新興国諸国の排出量は増える一方です。ですから、すべての主要国が参加しない、実効性のない仕組みに乗るわけにはいきません。COP16以来、政府がそのような立場を一貫して維持したことが、全ての国が参加する枠組みに向けた交渉をスタートさせるというCOP17の成果につながったと思います。2010年のCOP16開催前に、ある会議に参加しましたが、感情的と言いますか、ムードに流された人たちから、日本は国際社会の流れに乗り遅れると指弾されました。しかし、私は、「間違った電車に乗ってはいけない」と反論させていただきました。
――間違った電車に乗ったら、目的地には辿りつけないと。
関田:その通りです、私たちの子供や孫、さらにはその先の世代に迷惑かけることになる。では、どんな取り組みを行えばいいのか。日本はこれだけの技術力を持っているわけですから、いろいろな仕組みを使い、世界に省エネ技術を供与して、地球規模でCO2を削減して温暖化防止に貢献していくことが重要です。いわゆるエコソリューションを提供していくべきでしょう。排出権取引のようなマネーゲームではなく、技術による、地道だが確実な排出削減が実効性のある温暖化対策だと思っています。