震災を機に評価高まる都市ガスの可能性[前編]

発電と熱利用で安定的なエネルギー需給に貢献へ


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

印刷用ページ

東日本大震災では、地震と津波によりガスや水道、電気の供給が途絶え、大きな影響が出た。この未曾有の震災にガス業界はどのように対応したのか、また、今後のエネルギー政策に業界としてどのように取り組んでいくのかについて、日本ガス協会常務理事の池島賢治氏に話を聞いた。

――3月11日の東日本大震災により、私たちはエネルギーインフラがいかに大切かを痛感しました。震災直後、LNG(液化天然ガス)基地やパイプラインはどのような被害状況でしたか。

池島:今回の震災では、約46万件の都市ガス供給が停止しました。まず、パイプラインに対する被害ですが、お客様に近いところを通るガス管で一部耐震化が進んでいない低圧管に被害があったものの、中圧、高圧という基幹導管については基本的に被害がなかったという点では、これまでの震災と同じ状況でした。一方、これまでの地震と大きく違ったことは、製造設備が被害を蒙ったことです。特に仙台市のLNG基地をはじめ複数の製造設備が津波で被害を受け、ガスの供給源に支障が生じました。

――被災地での復旧はどのような状況で行われたのですか。

池島:今回の震災では、製造所が被害を受け、ガスの供給源を失いました。これまでの地震ではガスの供給源は確保されておりましたので、壊れている導管部分を直しながら順次ガスを復旧させていけばよかったのですが、今回は、まずガスを確保しなくてはならず、そのために少し時間がかかりました。その後の復旧は、これまでの震災の経験が生きて順調に進み、また、設備の耐震化も相当進んでおりましたので、1カ月あまりの期間で、比較的早く復旧できたと思います。

――ガスの供給源はどのように確保したのですか。

池島:LNG基地が津波で壊滅的被害を受けた仙台市に対しては、新潟県にあるLNG基地から仙台市に通じている高圧導管を使って天然ガスを供給する方法を取りました。また、サテライト製造所が被害を受けたところには臨時供給設備を持ち込み、LNGタンクローリーやLPGボンベなどによって、ガスの供給を確保しました。都市ガス設備は、非常に大きな揺れを感知し、ガス管に損傷の恐れがある場合、自動的にガスの供給を停止します。そのような地域が岩手県から福島県、さらには茨城県や千葉県までありました。このような広域にわたって供給停止エリアが出たことは、我々にとって初めての経験でしたが、広域の被害に対して全国の都市ガス事業者が支援する形で復旧にあたりました。

Ikejima

池島 賢治(いけじま けんじ)
1981年に京都大学大学院工学研究科修士課程(土木工学専攻)修了後、同年大阪ガス入社。都市圏営業部マネジャーを経て、2003年エネルギー事業部計画部長就任。兵庫エネルギー営業部長、エンジニアリング部長を歴任し、2010年6月、執行役員就任とともに現職。

臨時供給設備の備えで復旧は容易になる

――全国の事業者が復旧に向けて協力する体制が組まれているのですね。

池島:全国の都市ガス事業者が協力して、ピーク時で約4100人の復旧隊員が被災地に入って応援をしました。きわめて迅速に対応できたのは、阪神、中越、中越沖と同じような経験を積み、都市ガス事業者のなかで応援の仕組みができあがっていたからです。これまでの経験が、いい方向に働いたと思います。

――震災直後、お客様からの問い合わせが殺到したのではないでしょうか。

池島:「どうなってるのか」、「いつガスが出るのか」というお問い合わせは非常に多くありました。こうしたお客様対応も、いくつかの震災を経て、阪神大震災の時よりも相当進化しました。
 たとえば阪神大震災では、初めてガスを止めて復旧するということを経験したわけですが、当時は、「今、○%復旧です」とお伝えしていました。しかしお客様にとっては、50%であろうと60%であろうと、自宅のガスがいつ出るかが大事なわけで、社会に対する情報伝達としては十分でなかったと思います。今回の震災では、個々のお客様に復旧情報を伝えるために、ホームページを活用したり広報車を巡回させたりするなど、さまざまな工夫をしました。ただ、確実な復旧時間は言えませんでしたので、「いつになるんだろう」とお待ちになったお客様もあったかと思います。ご不便おかけしたことは、本当に申し訳ないことだったと思います。

――災害対策において、今後どのような課題に取り組まねばならないとお考えですか。

池島:特に津波に対しては、設備をもう一回見直す必要があると思います。もう一つは、今回非常にうまくいった「臨時供給」という仕組みの活用です。これは、設備は壊れていますが、なんとか臨時供給で早期にガス供給を再開しようという工夫で、これほど大規模に活用したのは今回が初めてでした。
 阪神大震災以降、経済産業省のご支援をいただき、有事の際に臨時に運べる臨時供給設備を全国で約500基以上整備しておりましたが、今回はそれを集結して現場に持ち込みました。
 ある製造所では、LNG輸送用のLNGローリー車を現地に常駐させ、LNGタンク替わりに利用しました。本来はローリー車からタンクにLNGを移して、その後、LNG気化器を通じてガスを製造するのですが、タンクも気化器も津波で機能しなくなったための応急策です。LNG気化器も別の所から持ち込み、臭いを付ける付臭設備を現場で仮設しました。製造所が壊滅的な被害を受けましたので、こうした臨時供給設備を設置することで、本格復旧より何カ月も早く都市ガス供給を再開することが可能になりました。今後、病院などの重要施設への臨時供給や、壊滅した製造所へのプラントの移設など、全国のガス事業者のネットワークを活用したシステマティックな復旧の仕組みを確立していこうと思っています。

LNGローリー車と仮設気化器を利用した臨時の都市ガス製造・供給設備(宮城県石巻市
LNGローリー車と仮設気化器を利用した臨時の都市ガス製造・供給設備(宮城県石巻市)

ガス事業の発展が電力の安定的な需給を担う

――今後も電力の需給がひっ迫する状況が続きそうです。ガス会社はどのような協力ができるでしょうか。

池島:例えば、原子力発電所が稼働停止した時の代替電源として期待されている天然ガス火力発電所に対する天然ガスの供給があります。ガス会社も発電設備を持っていますので、発電量を増やして電力会社に供給することもできると思います。
 さらに効果が大きいのは、需要側の節電です。これまで以上にエネルギーの有効利用が求められていますが、都市ガスによるシステムが役に立つのではないでしょうか。その一つがコジェネレーションを利用した分散型電源であり、系統電力への依存を抑制することが可能です。また、ガス空調の導入により、特に夏季や冬季の電力ピーク需要量を減らす協力もできると思います。こうしたことを含めて、エネルギーのベストミックスについて、我々がお役に立てる部分が非常にたくさんあると感じています。

――東京都が天然ガス発電所計画を最近発表しました。ガス事業者として、今後、発電事業にも積極的に入っていく計画があるのでしょうか。

池島:ガス事業者の計画につきましては、それぞれの会社の考え方があると思いますし、発電事業には、IPP(卸電力事業)もあれば、小売の発電所を作る事業もあります。東京都の計画では誰が事業主体になるのか、そのあたりをビジネスとしてどう考えるのか、電力供給体制が今後どうなっていくかを踏まえて判断すべきでしょう。できるだけ需要地に近いところに設備を持ち、排熱も利用して効率的にエネルギーを使うことは、我々がずっと推進してきたことですから、いろいろとお役に立てることがあると思います。

再生可能エネルギーとの親和性の高さを生かす使い方を

――排熱を有効利用でき、また発電効率も非常に高いコジェネレーション対する関心が高まっています。

池島:今の大規模な発電所はエネルギーの50%以上を熱として捨てているうえ、遠くの需要地まで電気を運んでいます。そのためのメガストラクチャーとしての系統システムがきちっと出来上がっておりますが、エネルギーをもっと有効に使うためには、需要家に近いところで発電をしながら、発生した熱も有効に利用するという考え方が大切で、少しずつでも広げていくべきだと思います。
 分散型のシステムと電力会社が持つメガストラクチャーがうまくミックスするあり方が、今後の日本のエネルギーとなるべきでしょう。その核になるのがコジェネレーションです。エネルギーの総合効率を少しでも高めていくことが必要だと思います。天然ガスの主成分であるメタンは、発電ができる、エンジンを回せるだけでなく、水素も取り出しやすい、非常にいい特性を持ったエネルギーです。40℃のお風呂のお湯をわかすということだけに使うのはもったいない。空調や給湯には発電時に発生した排熱を利用するなど、エネルギーを有効に使う努力を随所でできるようにしたいと思います。
 日本では、発電電力に占めるコジェネレーションの割合は3%程度です。ところが、デンマークは40%、オランダは30%を超えており、EU(欧州連合)全体でも10%を超えています。韓国も同様に10%以上です。日本でもできる限り排熱を上手く使えるようにしないといけない。そのため、政策的な要望に加え、私ども都市ガス事業者も努力していく必要があると思います。
――再生可能エネルギー全量買取制度が来年7月1日に始まります。分散型電源という意味では、コジェネレーションは再生可能エネルギーとの親和性が高いのではないでしょうか。

池島:コジェネレーションだけでなく、天然ガスそのものが再生可能エネルギーとの親和性が高いと思います。たとえば太陽熱とガス空調や給湯を結びつけるソーラーリンクシステムが活用できます。また、天然ガスを利用することで、バイオマスから作ったガスの安定性を補完することもできるでしょう。また、再生可能エネルギーによる発電出力の安定化に貢献できるスマート・コジェネにも、大きな期待があります。
 風力や太陽光などの再生可能エネルギーは積極的に利用していけばいいと思いますが、不安定な電源である再生可能エネルギーだけで日本の基幹エネルギーは賄えません。今後は全国の大きな電力系統を頭に置きながら、重層構造の中でエネルギーの使い方を考えていくべきと思います。再生可能エネルギーのよさをより生かすためにも、天然ガスがお役に立てる部分は大きいと思います。
(後編に続く)

グラフ
2007年時点でデンマークではコジェネレーションの導入率が40%超に達する。EU全体でも導入率は10%を超える(各国のコジェネレーションの資料より作成)

記事全文(PDF)