日本経済が再び世界をリードするために[後編]
電力の安定供給確保が日本経済の浮沈を決めることになる
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
サプライチェーンから弾き出される日本企業
――原発の再稼働がない場合の電力供給不足について、あらためて状況把握させてください。
井手:政府のエネルギー・環境会議が7月29日に決定した「当面のエネルギー需給安定策」によると、今年の冬、原発を再稼働しない場合は、東日本で1.1%、中部・西日本で0.4%の供給力不足が見込まれるものの、電力使用制限は回避できるとしています。それよりも問題は来年の夏で、東日本で10.4%、中部・西日本でも8.3%の供給力不足が見込まれており、今年の供給力不足を大きく上回ります。しかも、電力不足が国内全体に及ぶため、国内の生産シフトでは対応しきれないと考えられます。
原発の安全性が確認され、地元自治体や住民の同意を得て再稼働できれば、最悪の事態は回避されます。しかし、今のところ1年先の電力供給についてさえ、企業が安心できる状態ではありませんし、予測できる状態でもありません。
――電力供給が安定しないと、生産計画も立てられませんね。
井手:今夏については、各社とも、限られた準備期間のなかで懸命に対策を検討し、実行しました。国の電力使用制限に関しても、社会への影響の大きさを考慮し、限られた時間のなかで、ぎりぎりまで制度設計に知恵を絞り、産業や国民生活への影響を最小限にするように配慮がなされました。もちろん、国民一人ひとりも、この非常事態への対応に積極的に取り組んだことと思います。
しかし、海外の企業は、電力の供給不安がある国の企業にサプライチェーンの一翼を担わせることを非常に不安視しています。現実に、日本企業に対する発注を減らし、調達ルートを分散しつつあります。
――原発が再稼働しない場合、電力コストが2割上昇するという試算を先ほど伺いました。
井手: 1kW時あたり、コストが3円前後上昇するという試算もあります。こうした状況下では、国内生産を維持したくても果たせず、海外に出ざるを得ない企業が増えることは避けられないでしょう。
繰り返しになりますが、電力安定化の道筋を一刻も早く示していただく必要があります。先行きが見えないと、企業の投資判断が非常に難しくなります。決して、原発の再稼働を拙速に求めるものではありませんが、政府には産業界の危機感を共有していただき、的確な対応をお願いしたいと思います。