ドイツは原発に回帰するのか
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
(「エネルギーレビュー vol.540 2026年1月号」より転載:2026年1月20日発行)
ドイツは2023年4月15日に最後まで稼働していた3基の原発を停止し、11年の福島第一原発事故直後に決めた脱原発を実行した。当時行われた世論調査では、原発の稼働継続を支持する比率が50%を超えていたが、緑の党を含む連立三党は、エネルギー危機の影響を受け供給力に不安が生じた冬季の電力供給を確保するため、当初の閉鎖予定の22年末から運転期間を延長しただけで、結局脱原発を実行した。
2025年2月の総選挙の結果、総選挙のマニフェストで停止した原発の再稼働の検討を謳ったキリスト教民主/社会同盟が社会民主党と連立を組み政権を握った。原発は再稼働するのだろうか。11月に欧州出張の機会があったので、ドイツの産業団体、エネルギー水産業協会(BDEW)と日本の経団連に相当する産業連盟(BDI)を訪問し、ドイツ経済の現状と併せエネルギー問題、原発回帰に関する意見を聞いてみた。
ドイツ経済は不振だ。その原因のひとつは、ロシアから半世紀にわたり供給され、産業と生活を支えた安価な天然ガス供給が失われたことによるエネルギー価格の高騰だ。もうひとつの原因は、輸出入を通じ深い関係にある中国経済の不振の影響だ。ドイツの実質国内総生産(GDP)の伸びは、2023年、24年と前年比マイナスだ。
エネルギー価格の上昇はエネルギー多消費型産業を直撃し、2018年からの化学産業の生産量の落ち込みは2割を超えた。ドイツ産業の柱である自動車業界も、電気自動車(EV)市場の読み間違い、中国市場での不振があり、生産と雇用の維持に四苦八苦している。政権は、産業用電気料金引き下げのため2026年1月から補助金を支出する構えだが、「競争を歪める」とする欧州委員会と協議中だ。
そんな状況下で、電力需要は大きく増加すると予測されている。前政権は2030年の電力需要を、今のほぼ5割増の7500億キロワット時としていたが、低成長に加え、EV市場の伸び悩みもあり、現政権は6000億から7000億キロワット時の間になると予想を引き下げた。
ドイツは2030年の電源の再生エネ比率目標を8割としている。電源を確保できるのだろうか。BDEWは、洋上風力の導入は困難になったが、陸上風力と太陽光で発電量の8割確保は可能としているが、ピーク需要を満たす供給力の確保は簡単ではないとみている。
電源確保のため、ドイツ政府は1200万キロワットの天然ガス火力の導入を計画しているが、温暖化の観点から欧州委員会との議論になり、導入は不透明だ。閉鎖予定の石炭火力を予備電源として確保する可能性もあるとされるが、事業者が満足する費用が支払われるのかはっきりしないので、これも不透明だ。
再稼働が可能であるならば、安定電源として原発を使うべきだろう。2025年4月の世論調査では、原発への回帰賛成55%、反対36%、分からない9%だ。しかし、技術的には閉鎖された原発の再稼働は困難であり、BDEWは「すでに終わった話」と、業界としては再稼働に否定的だ。BDIは政治的に難しい話になってしまったので、触らぬ神に祟りなしとし、これからは、誰も反対しないフュージョン(核融合)に原発の話は移っていくとみている。
経済が低迷する中とはいえ、電気料金と安定供給の面で再稼働がなくても大丈夫とするのは解せないが、BDEW、BDIとの会話から共通して読み取れたのは、周辺諸国が原発の新設に力を入れているから、ドイツがあえて原発に乗り出さなくても、当面は周辺国からの原発の電気を輸入すれば良いとの発想だ。ドイツの新政権と同じく日本の高市新政権も、競争力ある電気料金と安定供給を掲げている。ドイツと事情が異なる日本の目標達成の道は、原発の再稼働、建て替え、新設しかない。













